34 新しい防具
伝説の鍛冶師ヨルンさんの話が大体終わったところで、カジさんが思い出したように一言。
「ところでお前ら、何しに来たんだ?」
「「「「あっ!」」」」
すっかり忘れていたが、今日は俺の防具を買いに来たんだった。
カジさんのインパクトが大きすぎて俺もみんなも失念していた。
「今日は俺の防具を買いに来たんです。胸とお腹周りをカバーできる軽くて丈夫なのがいいんですけど。あと、できれば身動きが取りやすいものがいいです。」
「お前・・・」
カジさんは俺の全身をザっと見回すと、一つ頷いて
「・・・うん。お前、中々鍛えてるじゃねぇか。いいぜ!気に入った!ちょっと待ってろ!」
なぜか、カジさんは上機嫌でお店のほうに戻っていった。
「俺と扱い違いすぎないか?」
グレッグがぼやく。
「「「・・・」」」
ドンマイ。俺たちはグレッグの肩を叩いて慰めた。
しばらくすると、カジさんがお店のほうから戻ってきた。
なにやら両手いっぱいに抱えている。
それらを作業机の上に並べ、
「さて、ここから選べ!篭手を見せてもらった礼だ。好きなのをやる。」
「え!?いいんですか?」
「おうよ!」
「なら、お言葉に甘えて・・・」
う~む。どれにしようか。
鎖帷子だけでも上半身をすっぽり覆う服のようなものから胸とお腹それぞれ片方のみのものもあるし、さらには重そうなプレートアーマーや衝撃吸収に特化したブヨブヨした皮製のものなんかもある。
まず、重そうなプレートアーマーは動きが鈍くなるうえ、移動だけでも体力をかなり消耗するだろうから却下だ。
それから鎖帷子だが、剣やナイフ、角や牙といった鋭い攻撃の場合には、一点にかかる衝撃を分散させることができるので非常に有効だが、今回の討伐対象であるジャギーコングはおそらく、そういった感じではない。
パイさんの話を聞く限り、パンチや体当たりといった攻撃がメインの魔物だろう。
とすると、やはりここは伸縮性があり、衝撃吸収に特化した皮製のものがいいと思われる。
正直、ブヨブヨとした感触は気持ち悪いが・・・。
まあそんなわけで、俺は皮製の防具を貰うことにした。
「じゃあ、この皮製のものをください!」
「ほ~う。それを選ぶか・・・」
おっと、カジさんが俺を鋭く睨みつけてくるぞ。
え?何かミスりました?
俺が内心緊張していると、カジさんは一転、物凄くいい笑顔で
「お前、目利きもできんだな!こりゃあ、マジで驚いた!まあ、さっき見せてもらった篭手もしっかり手入れできてたし、扱いのほうは問題ないだろうとは思ってたけどな!いいぜ!持ってけ!」
と、俺のことをやたらと褒めてくれた。
いやいや、ただ用途的に良さげなのを選んだだけです!
なんてことは、流石に言えない雰囲気だよなぁ。
褒めてもらえるのは嬉しいが、一部勘違いっぽいので、ちょっと困る・・・。
それはさておき、せっかくだ、さっそく防具を着用してみよう。
・・・うん。身体に吸い付くようなフィット感があり、とてもいい。
気持ちが悪いとか言ってすみませんでした!
見た目がちょっと太って見えるのは、まあ仕方がない。
着太りするってことで消化しておこう。
防具を装着して激しく動いてみたが、身体を捻っても皮の伸縮により柔軟に追従してくるし、グレッグに試しに殴ってもらったが、全然痛くなかった。
これほどの性能とは、正直かなり驚いた。
機能性重視なのは間違いないようだ。
それから俺は、カジさんから手入れの仕方をしっかりと教わり、店をあとにした。
さて、次はどこへ行こう。




