32 防具屋のお兄さん(?)
『三日月亭』を出た俺たちはまず、グレッグたちの馴染みの防具屋『ガジェット』に向かった。
みんなが言うには、
「ジャギーコングと戦うなら、とにかく全身の防具が必要だな!」
「無防備な状態で殴りかかられたら、即死だもの。」
「まあ、防具があっても即死かもだけどね~。」
ということらしい。
おい、フェイ・・・防具があっても即死じゃあ、意味ないじゃん。
とか思いつつも、確かに何もないよりはマシだろうと考え、とりあえず防具を買いにきたのだった。
とはいえ、防具でガチガチに固めても身動きが取れなくなるため、できるだけ軽くて丈夫なやつ、それでいて動きやすいものがいいだろう。
篭手は父さんに貰ったものがあるから、買うならお腹と胸をカバーできるものが欲しいところだ。
そんなこんなで店の前である。
「グレッグの鎧もここで作ったの?」
「ああ、ここの工房で作ってもらったんだ。見た目は素朴というか無骨というか、あんましきちんとしているようには見えないんだが、機能性は抜群にいいもんで、重宝してんだ。」
「ウチの鎖帷子もここで買ったんだよ。軽くて丈夫なのが最高!」
「へ~。俺もそういうのが・・・」
欲しい、と言いかけた時だった。
「おい!人の店の前でうっせーぞ!どこのクソカスだおらぁ!」
店から金槌を持った赤髪の青年が出てきた。
身長はグレッグと同じくらい、鋭い目つきに眉間の皺、耳と鼻につけたピアスがいかにも強面ヤンキー風である。
「チッ。グレッグのカスじゃねぇか!また鎧を壊したのかよ?あん!」
しかも口が非常に悪く、初手からケンカ腰ときている。
なんなんだこの人は。
店員のお兄さんではなく、取り立てのチンピラじゃないか。
それにグレッグをカス呼ばわりはちょっとひどいんじゃないだろうか。
不愉快な気分になった俺は、思わず間に入ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
間に入った俺を物凄い形相で睨み、怒鳴りつけてくる青年。
「あん?んだぁ?ガキィイイイ!?おい!その腕に着けてるもん、ちょ~っと見せてみろ!いや、見せてくださいぃいいい!」
と思ったら、なにやら様子がおかしい。
「うぇ!?い、一体何ですか?」
先ほどまで物凄い形相で睨んできていた青年が、やけに低姿勢で、というか頭を地面に擦らんばかりの勢いでお願いしてくるなんて、完全に予想外だ!
腕に着けているものといえば、旅立つ前に剣と一緒に父さんから貰った使い古しの籠手だが・・・何が凄いのだろうか?
まあ、見た目は素朴で、無骨な造りにしか見えないが、軽くて丈夫っていうところは凄く気に入っているけれども。
もしかして、これを作った人の弟子か何かか?
この人も素朴で無骨な機能性を重視した防具を作る人らしいし。
まあそんなこと今はどうでもいい、とにかくこんな往来で、強面ヤンキー風の青年が10歳の少年に頭を下げている図は、ちょっと、いや非常によろしくないだろう。
というわけで、一刻もはやく店の中に入りたい!
「わ、分かりました!分かりましたから、とりあえず中で見てもらえませんか?お店の商品も見てみたいですし!」
そう言うと、赤髪の青年はすぐさま立ち上がり、勢いよく店の中へ入っていった。
「こっちだ!ついてきてくれ!はやくっ!」
「「「「・・・なに?今の。」」」」
俺たち4人は、一様に首を傾げるのだった。




