29 初依頼は・・・
「じゃあ、ジェフ君。このまま私と臨時のパーティーを組みましょ!そうすれば、いちおうパーティーということになるから、私の依頼にも同行できるようになるわ!」
パイさんはそう言うと、いつの間に用意していたのか、手に持っていたパーティー結成届に自分のサインをして俺に渡してきた。
まあ、パイさんの戦闘が見たくて魔物討伐に同行させてもらうんだから、臨時でもパーティーは組んでおいた方がいいだろう。俺はパイさんから書類を受け取り、名前を書いた。
「こちらこそよろしくお願いします!」
「うん!これで私たちはパーティー。永遠のパートナーよ!」
「パイさん・・・それは違うでしょ・・・」
一人ハイテンションのパイさんにジト目を向けるケイトさん。
この二人本当に仲がいいんだなぁ。
そんな感じでパーティー結成まで済ませた俺たちは、そのまま明日の予定を決めることにした。
まずは、依頼の貼り出されている掲示板のところへ向かう。
「それじゃあジェフ君は、この辺りにある依頼から探してね。私はあの辺を探してくるから。」
俺は掲示板の右側を、パイさんは左側を順に確認していく。
ちなみに、掲示板に貼り出されている依頼は、左にいくにつれてランクが高くなっていくようにきちんと整理されている。
依頼をスムーズに探せるようにするとともに、間違って高ランクの依頼を選んだりしないようにするためだ。
俺の見ているFランクレベルの依頼では、やはり魔物の討伐依頼は少ないようで、ほとんどがドブさらいやお使いといった雑用ばかりだった。
いくつか発見できた魔物の討伐依頼もキラービーやジャイアントアントといった昆虫系の魔物で、それほど強くはなさそうだし。
一般的に昆虫系の魔物はサイズ的にも小さく、それほど強力ではないため脅威度は低いのだ。まあ、恐ろしく強力な毒を持つ魔物や酷く硬い甲殻を持った魔物もいるため、全てがそうというわけではないが。
それから依頼を物色すること数分。
う~む。駆けだし冒険者のくせに生意気かもしれないが、いまいちこれといった依頼が見つからない。
もっとこう、経験値的にも味覚的にも(?)おいしい魔物はいないものか・・・
とか考えていたら、パイさんが一枚の紙を手にこちらへ戻ってきた。
「ジェフ君。そっちはどう?」
「いえ、どうにも・・・」
「あ~。その辺じゃあ仕方ないわね。ジェフ君には物足りないかも。」
「とはいえ、俺もまだ駆け出しですし。」
「まあ、そのへんは私に任せて!これなんてどう?」
「え~と、ジャギーコングの討伐ですか。」
「ええ。ジャギーコング。素早い上に文字通りパンチ力のある魔物よ。おまけに身体の筋肉が異常に発達していて恐ろしく硬いの。当然、脅威度も結構高めだからBランクの依頼になるわ。」
おっと、まさかいきなりそんな強力そうな魔物を出してくるとは。パイさん、あなた俺を過大評価していませんか?
まあ、戦えそうかどうかは実物を見てからかな。パイさんのほうはすでに戦闘経験があるようだから、最悪お任せすることもできるだろうし。ホント助かります。
「それじゃあ、それでお願いします!」
俺たちは依頼の貼り紙を持って、再び受付嬢ケイトさんのところへ向かった。
問題なく依頼を受注した俺たちだったが、ここで俺は一つ忘れていた用事を思い出した。
「あ!そういえば。」
「うん?どうしたの?ジェフ君。」
「あ、いえ。そういえば、こっちに来た目的がまだだったのを思い出しまして。」
「あれ?冒険者登録のためじゃないんですか?」
「はい。実は冒険者ギルドの向かいにある『三日月亭』っていう宿に知り合いの冒険者が泊っているらしくって。ウラノスの街を案内してもらう約束をしているんです。パイさんとは、たまたま『三日月亭』に向かっている途中で出会いまして。」
「あ~。言っていたわね、そんなことも・・・」
「そうだったんですね。『三日月亭』なら真向いですから、このあと行かれては如何ですか?この時間帯ならまだ宿にいらっしゃるかもしれませんよ。」
「そうですね。それじゃあ今から『三日月亭』に行ってみます!ケイトさん、今日は色々とありがとうございました!それからパイさん、明日はよろしくお願いします!」
「ジェフさん、またのご利用をお待ちしております。」
「ええ。明日の朝、ギルド前で落ち合いましょう。」
「はい。それではまた明日!」
「ええ。またね。」
俺はその場でパイさんと別れ、『三日月亭』に向かった。
そういえば、今日の宿もまだ決めていなかったな。
ついでに『三日月亭』に泊れるか聞いてみよう。
俺はグレッグたちとの再会に胸を躍らせ、冒険者ギルドをあとにした。




