25 とある女性冒険者との出会い
次の日、俺は領主の館をあとにし、『三日月亭』に向かっていた。
グレイシス辺境伯は馬車を出すから乗っていけと言っていたが、さすがにそこまで迷惑はかけられないとお断りした。それに、せっかくだしウラノスの街並みをじっくり眺めながら歩きたいという思いもあったしな。
グレッグたちと南門で別れるとき『三日月亭』は南西区画、しかも冒険者ギルドの向かいにあるという話だったから、領主の館から大通りを南に歩いていけばすぐに見つけられるだろう。
・・・と思っていたのに。
どれだけ歩けば着くのだろうか。
いや、道自体は一直線だから、ここからでも南門を確認することはできるのだ。にもかかわらず、歩いても歩いても南門が近づいてこない。
それに右を見ても左を見ても冒険者ギルドらしき建物は見当たらない。
まあ、大抵の冒険者は南門から出入りするらしいから、利便性を考えると南門の近くにあるのだろうと思われるが、まだまだ遠いな。
大きな街であることは、街中を馬車で移動していたときに気づいていた。
しかし、まさかこんなに大きな街だったなんて、完全に考えが甘すぎた。ここはお言葉に甘えて馬車に乗せてもらうべきだった。
まあ、いざとなれば路馬車に乗って向かえばいいか・・・懐的には痛い出費だけど。
そう。この街にはなんと路馬車なるものが存在していたのだ。
俺は街に来たのも初めてだったから、街を走っている馬車はすべて自前のものかと思っていたが、これだけ大きな街だと徒歩だけで移動することはほとんどなく、路馬車に乗って移動するのが当たり前らしい。
路馬車は街の中を、いくつかの停留所を周りながら定期的に周回しているようで、料金は700リアの前払い、少し高めに感じるが、停留所のどこで降りてもこの値段。つまり、一律700リアで路馬車が周回する範囲であればどこにでも行けるということだ。
ちなみに、一度降りてしまうと間違った場所で降りてしまった場合でも再び運賃を払い、乗り直さなければならないので要注意だ。
などなど路馬車についてのあれこれを、先ほど停留所の立て札を不思議そうに眺めていた俺に、路馬車待ちの親切なおばあさんが教えてくれた。
よく田舎から出てきた若者が、訳も分からずに路馬車に乗ってしまい、道に迷ってしまうことがあるのだとか。
こんな大きな街で迷子とかシャレにならん。きっと俺も物珍しそうに立て札を眺めていたから、田舎から出てきた子供を思われたのだろう。
まあ、間違いではない、というかそのまんまです。
おばあさんありがとう。
それはさておき、ようやく冒険者然とした格好の人たちが増えてきた。
全身フルプレートに大剣やハルバードを背負っている人から軽装でナイフや弓を持った人(おそらく鎖帷子くらいは着用しているだろうが)、大きな魔法杖を背負っている魔法使い、そしてビキニアーマー。
・・・ん?ビキニアーマー!?
思わず二度見どころか三度見、いや、ガン見してしまった。
いやいや、それ防御力ゼロですよ、おねえさん!
っとヤバい、ガン見していたのがばれてしまったようだ。
防御力ゼロ、(男への)攻撃力MAXの美女がこちらへ向かってくる。
間近で見ると、一層綺麗な人だな。・・・そしてちょっとエロい。
身体つきを見るに、おそらく戦士系統だろう。
一見なおやかで女性的な身体つきであるが、足と腕、それにお腹にもバランスよく筋肉がついていて、いい感じに引き締まっているし、歩く動作も自然で、身体のしなやかさを感じさせる。
きっとしなやかな身体を活かした近接戦闘を得意とする人だろうと思う。
「うふふふ。どうしたの~ぼくぅ?そんなに嘗め回すように見られたら、おねえさん恥ずかしいわぁ。」
すみません。観察していただけなんです。
・・・まあ、綺麗な人だなとも思いましたけど。
「い、いえ。おねえさんが綺麗だったので、つい・・・」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。うふふふ。」
「お、おねえさんは冒険者の方ですか?」
「そうよ。これでも一応、ソロで冒険者をやっているの。」
「へぇ~。ソロで冒険者なんて凄いですね!」
「うふふふ。ありがとう。ところであなたは新人君?・・・にしては・・・手練れって感じだけど・・・」
「俺はジェフって言います!騎士を目指して王都に向かうところなんですけど、その前に知り合いの冒険者に会いに行こうかと思いまして。」
「・・・あ~。なるほどね。それは残念、せっかくだからパーティーにでもお誘いしようかと思ったのに。」
なるほど、パーティーメンバーの勧誘だったのか。
なぜ、俺を誘ってきたのかは分からないけれど。
まあ、パーティーを組むのは無理だが、冒険者活動には興味があるし、可能だったらご一緒させてもらえないかな。
ビキニアーマーでソロの冒険者、それにあの立ち姿。
相当な手練れであることは見れば判るが、どんな戦闘をするのかは非常に気になるところだ。彼女の戦闘を見るだけでもかなり勉強になるだろう。
・・・決してビキニアーマーの美女を目に焼き付けたいからではない!
これは騎士になるために必要なことなのだ!
「パーティーはごめんなさい。でも、冒険者活動には興味があるので、良かったらご一緒させて頂けませんか?報酬はいりませんので!」
「でも、あなた王都に行くのよね?馬車の出発日時は大丈夫?」
「馬車が出るのは明後日ですから、明日ならご一緒できます!」
「そう・・・それなら、明日一緒に魔物の討伐に行きましょう!そうと決まれば、まずは冒険者登録をしに行かないとね。っと、自己紹介がまだだったわね、私の名前はパイ。これでも一応Bランク冒険者よ。」
パイさんはそう言うと、俺を冒険者ギルドへと案内してくれた。




