24 領主の館⑦
夕食に大満足した俺は、風呂に入ったあと、ベッドに寝転んだ。
考えるのは父さんの昔話のこと。
騎士学校時代の話はまあ・・・いいだろう。
校内主席は俺も目指しているところだし、冒険者についても興味がある。道中で出会ったグレッグたち『銀の風』を見ていたが、冒険者活動も楽しそうだし、いい経験になるとも思った。
しかし、地竜討伐、これは本当に凄い!
物語で読んだ地竜は、それはそれは恐ろしいバケモノだった。
体長は50メートルで四足歩行型。
鋭い牙と爪、角をもっており、地上最強の生物である。
背中が山のような形をしていることからマウンテンドラゴンとも呼ばれ、翼をもつ飛竜型とは学術的にも区別される。
地竜の全身は、その身体に秘めた膨大な魔力によって形成された膜と非常に硬い鱗で覆われており、自然界で傷がつくことはまずなく、さらには、ほとんどの魔法を無効化してしまう効果があるという。
また、鋭い爪は大抵の獲物を一撃で仕留めるだけでなく、その硬度を利用して地面を掘りながら移動する際にも使用するらしい。
一説ではダンジョンと呼ばれる魔物の巣窟は、地竜が通ったもしくは棲み着いた穴であるという説がある。
なんでも、地竜の威を借った魔物たちが穴の中に棲み着き、穴を広げ、複雑な迷宮のようにしてしまうというのだ。
逆にいうと、ダンジョンの最奥部には地竜が棲み着いている可能性があるということだ。実際に到達した者がいないため真相は分からないが、学者たちによると、ダンジョンの壁には必ず地竜の爪痕のような傷が残されているらしい。
とまあ、そんなわけだから、地竜が地上で発見されること自体が非常に稀である。ましてや人間の住む地域に現れることなど長い人類史の中でも数えるほどしかないはずだ。
そんな数百年に一度とも呼ぶべき災害級の魔物に2度出会い、討伐まで成し遂げた男。なるほど英雄と呼ばれるのも頷ける。
なぜ、なにも教えてくれなかったのかは分からないが、父さんにより一層の憧れを抱いたのは間違いない。
騎士になって国を、そして家族を守る。
昔話の中でみた父さんの姿はまさに俺が目指す騎士の姿だった。
それから、話に出てきた【纏い】という技能。
今の俺では、魔力を自在に操ることができないため、この技能を習得することはできないが、騎士になるうえで必須の技能であることは自明の理だろう。
ファングボアの毛皮でさえ、あれほど硬かったのだ。今のままでは、より強く硬い魔物と遭遇したときに手も足もでない状態に陥ってしまう。
グレイシス辺境伯が言っていた通りなら、騎士の任務ではありとあらゆる魔物と戦うことになる。
当然、ファングボア以上の魔物と戦うこともあるはず、いや、むしろそういった魔物と戦う場面のほうが多くなるはずだ。
とはいえ、現状、焦っても仕方がないのも事実だ。
とりあえずは、基礎を固め、いろいろな戦い方をシミュレートしておこう。【纏い】については騎士予備校に着いたらギルバートおじさんに聞いてみたい。
そうして、いろいろと戦い方を考えているうちに、領主の館での夜は更けていった。




