閑話 カイルとデイズ~悪友~
ちょっと長くなってしまいました。
もう少しお付き合いください。
地獄だと思っていた学校生活は、俺の予想を裏切り、遥かに楽しいものだった。
カイルという男はつくづく規格外の大物で、一緒に居ても全く飽きなかったのだ。
ちなみに入学してから聞いた話だが、カイルと俺は同年齢の12歳だったらしい。ますますバカげた野郎だと思った。
ヤツには色々と付き合わされたが、中でも印象が強かった出来事が三つある。
一つ目は、入学早々に最高学年の主席学生をぶちのめしたこと
二つ目は、隣の魔法学園に女子を口説きに行ったこと
三つ目は、授業を抜け出して冒険者活動をやったこと
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まず、一つ目だが、これは俺たちが騎士学校に入学して3か月くらい経ったころの話だ。
騎士学校の伝統行事で、毎年6月から8月の三か月間に学校内での順位戦が開催される。
この順位戦は学年・年齢問わず、両者の同意があれば成立するもので、学内の競争意識を高めるために行われるものだ。
詳しいルールについては、実際に騎士学校に入学すればわかるから、ここでは説明は省かせてもらうが、簡単に言うと誰とでも勝負できて、さらにその相手の順位に応じて勝った時のポイントが加算されるルールになっている。
つまり、より順位の高い相手に挑み、勝てば勝つほど順位が上がっていく仕組みだ。
そして、カイルは驚くほどの脳筋バカだった。
この話を聞いたとき、開口一番こう言ったのだ。
「校内主席を倒せばいいだけじゃん!」
その場にいた誰もが思ったことだろう。
『こいつはバカだ。校内主席に勝てるはずがない。』と。
入学してからずっと一緒にいた俺ですらそう思った。
そして順位戦開催一日目、ヤツは本当に校内主席に勝負を挑んだのだった。まあ、この時点では校内主席もバカにされていると思ったのだろう。一切勝負に応じず、全く相手にしていなかった。
そこでヤツは考えた。バカの浅知恵だったかもしれないが、確かに効果的だった。
ヤツはとにかく片っ端から上級生に勝負を挑んでは勝利を修めていき、順位をみるみる上げ、順位戦最終日の前日、ついに十傑(校内順位1位~10位までの強者をそう呼ぶ)入りを果たし、校内主席に勝負を挑んだ。
順位戦には、十傑内での勝負については必ず受けなければならないというルールがある。これは、十傑内での順位変動が無くなり、停滞するのを防ぐための措置だ。
ちなみに、末席の10位については、下位40名すなわち50位以内のものからの挑戦は断ることができない。まあ、これも同様の理由によるものだが、末席の場合は特に入れ替わりが激しい。
そんなわけで、順位戦最終日、ヤツは校内主席と勝負し、見事勝利してみせた。さらにスゲーのは、それ以降、ヤツは初年度含めて在学中の5年間、校内主席に君臨し続けたことだ。
ちなみに俺は、2年の時に十傑入りし、3年で次席となったが、残念ながらカイルに勝てたことは一度もなかった。
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次に二つ目だが、すでに知っているかもしれないが、王立騎士学校の隣には、王立魔法学園もあるんだ。
騎士を目指す女は、いないわけではないが、その数はそんなに多くない。それとは反対に、魔法学園には男よりも女のほうが多く在籍している。つまり、女を探そうと思ったら必然、魔法学園の女子を狙うのが手っ取り早いってわけだ。
騎士学校と魔法学園は年に数回だが、合同授業がある。
ここで仲良くなれれば、晴れて勝ち組って寸法だ。
ただ、残念なことにカイルはぶさ・・・それほどハンサムではなかった。男前ではあるが、女受けはあまり良くなかったんだ。
しかし、そんなヤツを気にかけてくれる天使みたいな女子がいた。
俺たちがその子と初めて会ったのは、3年生での合同授業だった。
年齢も学年も同じで、最高に可愛い女の子。こりゃあライバルは多そうだと思った。
それに、どう見ても相当高貴な身分のご令嬢であろうと思われたため、俺は早々に諦め、傍観者となったのだが、ヤツはそうじゃなかったらしく、何かあるたびにしきりに話かけていた。
不思議なことに、傍から見ていた感じだと、かなり気が合っているように思われたのだ。
それからちょくちょく話す機会があり、その子が魔法学園の校内主席であると知ったときは心底驚いた。
可愛い上に恐ろしく強く、教養があり、礼儀作法も完璧な完全美少女。才色兼備とは、この子のためにある言葉だと思った。
ヤツにとってもその衝撃はとても大きかったらしく、完全にベタ惚れしたようだった。
しかし、やはりと言うべきか、今まで一切こういった経験をしてこなかったヤツは、かなりの奥手だった。
結局、最高学年に上がるまで一度もプライベートで会うことはできず、エアデートなどというバカげた妄想までやらかす始末。さすがに見かねた俺は、ヤツに言ってやった。
「あの子は、お前を待ってるんじゃないのか?あれほどの完全美少女は、そういない。数えきれない男どもがアプローチしたはずだ。それなのに誰ともそういった話は聞かない。つまり、心に決めた人が、待っている人がいるってことじゃないのか?おい!いい加減男を見せろよ木偶の坊!こんな情けない奴が騎士学校主席なんてお笑い草だぜ?」
「・・・せぇ。うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!俺なんかがあの子に釣り合うと思うか?こんな剣しか取り柄のないクソブスが!美女と野獣どころか美女とクソだぞ!どの面下げて一緒に表歩けってんだ!あぁん?」
思った以上に顔のつくりを気にしていたらしい。そこかよ!
つくづくバカな野郎だと思った。
「はぁ~~~~~。お前は本当にバカだな。逆だ、逆。お前に釣り合う女なんてあの子くらいだぜ?騎士学校始まって以来の天才剣士様よぉ。なぁ親友、俺はそう思うぜ。」
俺はバカでどうしようもない最高の親友の背中を押すため、こう続けた。
「お前が自分を信じられなくてもいい、だったら!お前を信じる俺を信じろ!お前の一番の親友である俺を!」
なんてな、このセリフ一回言ってみたかったんだ。へへ。
そして、事件はその次の日に起きた。
なんとヤツは、授業をサボって魔法学園に乗り込んだのだ!
焚きつけたのは俺だが、これは想定していなかった。
だって、いくら何でもおかしすぎる。
常人の思考を逸脱しすぎている。
俺はヤツが常人でないことを、とんでもない規格外であることを失念していた。
すぐにヤツを追ったが、時すでに遅し。
ヤツは魔法学園の校門をぶち破り、猪突猛進、一直線に女の子のもとへたどり着いていた。
あとから聞いた話だが、匂いで居場所を探り当てたらしい。ゴリラじゃなくてイノシシだったか・・・
とまあそんなわけで、俺は終盤も終盤、ヤツが件の女の子に平手打ちを喰らいこっぴどく振られているところしか見れなかったのだが、あれは酷かった。
項垂れるヤツがあまりにもかわいそうで、その日は俺がひたすら慰めてやらなきゃならなかったほどに。
まあ、焚きつけたのは俺だしな!
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そして、三つ目だが、実は騎士学校に通っている奴でも、お小遣い稼ぎに冒険者活動をする輩はそこそこいる。
俺たちも自己研鑽という名目のお小遣い稼ぎを散々やったクチだ。
まあ、なんとなくわかるだろうが、冒険者活動の主流は魔物の討伐だ。必然、得られる金銭は腕っぷしが強ければ強いほど、高額になる。
腐っても騎士学校の主席と次席だ、当然それ相応の魔物を狩ることができた。
想像してみろ、14、15歳のガキが普段手に出来ないような額の金を自分の腕っぷしで稼ぐ姿を!
楽しくて仕方がないんだこれが。俺たちは当然のごとくドハマりした。
しかし、事件は突然起こるもんだ。まさかあんなものに遭遇するとは夢にも思っていなかった。
その日も俺たちは、授業を抜け出して魔物の討伐依頼を受けていた。
内容は、モンキーウルフの討伐。
見た目は狼のようなんだが、尻尾が異様に長く、これを器用に操って木々の隙間を移動し、獲物にこっそり近づいてガブリ。鋭い牙で噛みつき、尖った爪を獲物に突き刺してトドメをさす狂暴な魔物だ。
俺たちは背中合わせに周囲を警戒しながら、モンキーウルフの現れるという森を探索していた。
「「!!」」
異変に気付いたのは、森に入ってしばらくしてからだった。前方、森の奥のほうから軍隊ネズミがとてつもない勢いで、こちらへ向かってきたのだ。
この数はまずい、そう思った俺たちは、すぐさま木の上によじ登って避難した。
しかし、ネズミどもは俺たちを素通り、まったく眼中にない様子だった。
本当の恐怖は群れが去ったあとにやってきた。
次第に大きくなる地鳴り、大木さえ揺れるほどの咆哮。
「ギャァアアオス!」
そこに現れたのは、なんと地竜。物語でしか聞いたことのない地上で最強の生物の一角だ。
あまりの恐ろしさに俺たちは、身を震わせながら縮こまり、絶対に見つかってはいけないと、息を殺して地竜が通りすぎるのを待った。
あんときは、正直チビリそうだった。
・・・・・・カイルもな。
俺たちはすぐさま依頼を放棄し王都に帰ると、冒険者ギルドに地竜発見の報告をした。
それからあっという間に王国騎士団による討伐隊が編成され、地竜討伐にむかったらしい。
一か月後、結局討伐は叶わなかったが、王国騎士団はなんとか地竜を撃退し、ガレーリア王国内の安寧は保たれ、事なきを得た。
騎士団の強さを思い知らされると同時に、俺たちはそろって自分の弱さに打ちのめされた。
『何が騎士候補生だ、情けない!こんなことで一体何が守れる!誰よりも強い心を持ち、困難に立ち向かう、それが本物の騎士じゃないのか!』
俺たちはこの出来事をきっかけに、より強い騎士に、この国を、人々を守れる強い騎士になろうと決意したんだ。
お気に入りのセリフをこんなところで言わせてしまいました(笑)




