22 領主の館⑤
俺たちがソファーに座ると、執事長は手ずから用意してくれたお茶菓子をテーブルに置いて部屋の隅に下がっていった。
辺境伯様が先に手をつけたのを見て、俺もお茶菓子を頂く。
「!?」
思わず声が出そうになってしまった。
うまい!うますぎる!
ゴッド執事長は、やはり神だったのだ!
ゴッドハンドの持ち主だったのだ!
一見素朴なクッキーかと思いきや計算され尽くした甘さに心地よい食感、生地に練りこまれている柑橘系の仄かな香りが絶妙なハーモニーを奏でており、この上なく美味で上品なものとなっている。
値千金いや、値万金と言っても過言ではない逸品だ。
さらに、この紅茶、クッキーとの相性が抜群にいい。
クッキーの味や香りを打ち消すどころか、それらを利用して更なる美味へと昇華させ、新たな風味を再構築する効果があるようなのだ。
クッキーと紅茶単体でも十分に至高の逸品なのに、両方を合わせることで更なる美味を楽しめる、一度で三度おいしい素晴らしいティーセットだった。
ああああああああ、手が止まらない!
「クックック そんなにうまいか? ニヤニヤ」
「・・・」
気づいたらグレイシス辺境伯がこちらを見て笑っていた。
嗚呼、やめてください。
そんな目で見ないでください。
本当に恥ずかしいです。
ついつい夢中になって食べまくってしまった。
ええい!だって仕方ないじゃないか!こんなおいしいもの、夢でも食べたことがなかったんだから。
「・・・・おいしいです・・すごく」
「ガハハハッ!そうかそうか!ならこれもやろう。好きなだけ食べるがいい!」
グレイシス辺境伯はそう言うと自分のクッキーを俺にくれた。なんだかすごく子供っぽくて恥ずかしいけど、胸の奥が温かくなるような感じがした。
「あ、ありがとうございます!」
結局俺は、貰った分も含めてクッキーを全て平らげ、紅茶も数回お替りしてしまった。
あ~至福の時間だった。ごちそうさまでした。
「こんなに喜んでもらえるなんて、よかったな。ゴッドじぃ。」
「ええ、執事冥利に尽きますな。ハッハッハ。」
「キュゥ・・・」
「ところで、ジェフリー。せっかくこうして会えたのに挨拶だけじゃつまらん。時間があるならお前の親父、カイルの昔話でもしようと思うんだが、どうだ?聞きたいか?ニヤニヤ」
「よろしいんですか!?ぜひ騎士時代のお話がお聞きしたいです!街の中でも噂されるほど有名らしいですが、父からは何も聞かせてもらったことがなくて。息子として、父がどれだけ凄いことをしたのか、きちんと知っておきたいんです!」
「よしよし。そこまで言うなら聞かせてやろう。っとその前に、ゴッドじぃ茶のお替りを頼む。」
「かしこまりました。」
ゴッド執事長が新しく淹れてくれた紅茶で喉を湿らせると、グレイシス辺境伯は父さんの騎士時代の話を実に楽しそうな顔で話し始めた。




