21 領主の館④
お読み頂きありがとうございます。
あなたのブクマが励みになります!
そいつは大きかった。
体長2メートル超で木の幹のように太い四肢に分厚い胸板。頬には肉がえぐれたような引っ掻き傷。眼光は鋭く、鋭利な刃物を突き付けられているようだ。一歩歩くたびに身体から滲み出る闘気が空気を震わせ、肌がヒリつく。
俺はその男を見据えたまま、動くことができなかった。
ただ、背中に冷や汗を搔きながらも頭は冷静に目の前の大男を分析していた。
今の俺ではどうあがいても勝てそうもない。あの腕で掴まれたが最後、即試合終了となるだろう。逃げるならば、後ろの窓から飛び出すしかない。まるで目の前に大きな壁が現れたような感覚である。
きっとどこかの物語の主人公ならこう評するだろう『まるで巌のような人だ』と。
「おう!お前がカイルの息子か!あいつに似ずハンサムだな!ガハハハッ」
大男はおもむろに口を開くと、野太い声で豪快に笑いだした。
「・・・」
はぁ~俺の緊張を返してほしい。
相手は辺境伯、俺からしたら雲上人。決して失礼があってはならないと気をもんでいた。
そして入ってきたのは、弟のギルバートおじさんとは似ても似つかない熊みたいな大男。その凶悪な風貌と威厳たっぷりな立ち姿に、俺はいっそう緊張感を高めていた。
それなのに!入室そうそう挨拶もなしに馬鹿笑いときている。
なんなんだこのおっさんは・・・
嗚呼、もう一度言う、俺の緊張を返してくれ。
「どうした?さっきから固まって石像の真似事か? ・・・プッ!アハハ!」
このおっさんもうダメだ。早く治療してくれ。
そこへゴッド執事長がスッと寄り、小声で何か言っている。
「旦那様、まずはご挨拶をなさるべきかと。」
「ああ、そうだったな。すっかり忘れちまってた。」
大男は改めて居すまいを正すと
「俺がここ、グレイシス辺境領が領主、デイズ・グレイシスだ。話には聞いていると思うが、お前の父、カイルとは騎士学校時代からの旧友だ。カイルからの手紙にもお前のことがよく書かれていたし、ギルバートからもちょくちょく話は聞いていたから初対面って感じがしなくてな。悪かった。」
「い、いえ。こちらこそ礼を失した態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。私はカーティス家嫡子、ジェフリー・カーティスと申します。私も父やギルバート様からグレイシス辺境伯様のことは伺っておりましたので、ぜひご挨拶申し上げたいと思っておりました。」
「ふむ。やはりカイルに似ず頭も良さそうだ!ガハハハッ」
「・・・旦那様、ジェフリー様、お茶の準備が整いましたので、そちらのソファーでご歓談なされてはいかがでしょうか。」
「そうだな。おい、ジェフリーも座れ。色々話すこともあるからな。」
俺は勧められるままにソファーに腰かけた。




