190 魔法学園の案内人
魔法学園の校舎は、我らが騎士学校の校舎とは違い、随分と芸術的な建物であった。まるで物語にでてくる大聖堂のような、それでいて前衛的なデザインである。
「ほぇ~なんやこれ。ほんまに学校なんか?」
「これは凄いね。校舎自体が巨大な美術品のようだ」
俺とジョーが感心しているところへ、ティナとロザリーが受付から戻ってきた。
「エリスたちは今、ちょうど学園長と面会中らしいわ。あの女性が案内してくれるって言うから、私たちもこのまま付いて行くわよ」
ティナの振り返った先に目をやると、中年くらいの優しそうな女性がこちらを見ている。案内してくれるというのは大変ありがたい。
まあ、俺たちのような余所者に問題行動を起こされたら困るというのもあるのだろうね。かつて無断で学園に乱入した誰かさんのように・・・。
「うん。分かった」
俺はその提案を受け入れ、女性に軽く一礼する。
「案内よろしくお願いします」
「かしこまりました」
女性も綺麗な所作で礼を返してきた。
そうして学園内を歩いていると、露骨な視線があちらこちらから飛んでくる。聞いていた通り、女子生徒が大半を占めているらしく、ほとんどの視線が俺かジョーに向けられているようだ。
ジョーがニヤつきながら言ってきた。
「なんやモテまくってるみたいで気分ええなぁ。ジェフリーも、あっつい視線刺さりまくってんで~」
「う、うん・・・」
おいやめろジョー。それ以上言うな。殺されるぞ!
女子生徒の視線に浮かれたジョーは気づいていないみたいだが、マルティナさんがさっきからめちゃめちゃ不機嫌なんだよ。歯ぎしり音もどんどん大きくなってるし。怖すぎ!
俺は空気を変えるために案内人に話を振ることにした。
「そ、そういえば、ここの校舎って凄く綺麗ですよね! まるで芸術品みたいな」
案内人の女性は柔和な笑みでチラリと振り返り、ゆっくりと話しだす。
「ええそうですね。実は、外部の人にはあまり知られていませんが、ここはもともと学校として造られた建物ではないのですよ」
「そうなのですか!?」
「はい。この建物は学園ができるよりも遥か昔。千年以上前に造られたものだそうです。学園に置いてある史書には、このガレーリア王国の興りとともに造られた “ 神殿 ” であったと記されています」
「 “ 神殿 ” ですか?」
「詳しくは、本校の魔法史という授業で教わるものなのですが、少しだけ・・・」
案内人曰く、かつて魔法は神から与えられる力と考えられていたらしい。そして “ 神殿 ” というのは、神から魔法を授かる儀式を行う場所であったのだという。
「魔法が呪文と構築式により体系化された現代では、そういった儀式はもはや必要ありません。しかし、今でも学園では、入学式の際にこの儀式を行います。あくまでも儀礼的なものですけれど、魔法の歴史を学ぶには実際に体験するのが一番ですから」
校舎と魔法の歴史について一通り聞き終えた頃、俺たちは大きな扉の前に到着した。
「こちらが学園長室になります。くれぐれも失礼のないようお願いしますね。それではお気をつけて」
女性が振り返って、そんな物騒なことを言ってくる。
どういうこと?!




