189 異変の予兆?
王都に戻った俺たちは、さっそく子供を教会の孤児院へと連れて行った。かつてザッシュの育ったあの孤児院ならきっと悪くならないだろう。
俺はシスターに少しばかりの寄付金を手渡しながら言う。
「それではあの子をお願いします。シスター。あの子、目の前で両親を失ったショックのせいか、どうにも表情が硬くなっているみたいなんです。どうか優しく接してあげてください」
「私にお任せください。ジェフリー様。孤児院のみんなも新しい妹を歓迎していますし、きっとすぐに元気な表情を取り戻すことでしょう」
「そうなることを祈ってます。ところでシスター。新しい妹とは?」
「はい? もちろん、あの可愛らしい女の子のことですが?」
首を傾げる俺を見て、シスターも首を傾げる。
「あの子は男の子ですよ」
「・・・・・まぁ!? あんなに可愛らしいのに、男の子だったのですか!」
数秒固まったあと、孤児院のみんなに囲まれている子供を三度見し、盛大に驚くシスター。比喩じゃなく、目が飛び出るほどの衝撃だったらしい。
「ええ。彼は男の娘です」
まるで女の子のような可愛らしい男子である。きっと成長したら数多の男を泣かせるに違いない。哀れな男どもよかわいそうに・・・。
とまあ無事に子供を預けた俺たちは、その足で学校へと戻りサチウス先生に顛末報告を行うことにした。エリーたちはエリーたちで魔法学園へ戻り、同様の報告をしているはずだ。
――一時間後。
やがて報告を聞き終えたサチウス先生。
「なんだと!? それは本当か?」
先生は驚きの声を上げたのち、非常に険しい顔でそう問い返してきた。
「ええ。その時戦った異常種と思われるヘルウルフの死骸とワイバーンの翼も確保してきました。これほど特殊な魔物の発生。どうにも違和感を覚えます。我々としては、早急に正式な調査隊を派遣するべきかと思われます」
「ふむ。なるほど・・やはり・・・」
「やはり? サチウス先生。何かご存じなのですか?」
「うむ。実は、演習を中断して帰ってきた班はお前たちだけではないのだ」
「ん? 課題を終えた班ではなく。ですか?」
「ああ、演習を中断して帰還した生徒たちは、みなお前たちと同様に異常な魔物と遭遇したと言っていた。まあ、実際に倒してきたのはお前たちだけだがな」
サチウス先生の話によると、俺たちの他にも演習途中で異常種の魔物と遭遇し、逃げ帰った班が、全クラス合わせて二十組ほどあるらしい。
それだけの頻度なら、もはや疑う余地はないだろう。やはり王都周辺で何かおかしなことが起きているようだ。
「学校長を通して騎士団の派遣要請を行う。お前たちの持ち帰った魔物の死骸を預からせてくれ。それを見せれば話が早いだろう」
俺は快くヘルウルフの死骸を預け、学校を出た。
「それじゃあ俺たちは、魔法学園のほうにも騎士団の派遣のことを知らせに行こう。向こうでも何か動きがあるかもしれない」




