188 儚い願望
ティナの大技に合わせて三つの頭を同時に斬り落とすことに成功した俺たち。ヘルウルフの無限に続く再生活動がようやく止まった。
「!?」
直後。その巨大な四肢が、大きな音をたてて崩れ落ちる。
「・・・やったのか?」
確証はない。だが、ティナの「合わせて」という言葉には、何か確信めいたものが感じられた。
さすがに頭が一つもない状態なら魔法も構築できないもんな。たぶんティナもそれに気づいていたのだろう。俺の加勢を止めたのも、きっとそのためだ。
「って、そういえば・・・ティナ!」
視線をやれば、地面に深々と突き刺さる一本の剣と気を失って倒れているティナの姿。俺はティナへと駆け寄り、身体の状態を確認する。
「・・・・・ふぅ。命に別状はなさそうだね」
あとから来たみんなも、それを聞いて胸をなでおろしたようだ。一様に安堵の溜息をついている。
「とりあえず少し休もう。ティナが起きたら町に戻らなきゃ」
そうして俺たちはティナの回復を待って町へ帰還したのだった。
――夜。
町の中心部にある一軒家。辛うじて原型を留めているその家のリビングには、ほのかな灯りがともった。
俺たちは各々で適当に拾ってきたイスに座りながら、ボロボロになったテーブルを囲み、今後の方針を話し合う。
「で、ジェフリー。このあとどうするん?」
さっそく口を開くジョー。
「もう演習どころやないやろ? いったん王都に戻ったほうがええんちゃう?」
「私もそう思います。お兄様。丘陵地にワイバーンが現れたことといい、ヘルウルフの異常種のことといい、少し不可解です。ここは王都に戻り、正式な調査隊を派遣して頂く必要があると思われます」
「そうね。ここは一度王都に戻ったほうがいいと思うわ。その子のこともあるし・・・」
みんなの視線が俺。ではなく、俺の膝に乗ってしがみつく子供に向けられる。ここに来たときに助けた子供だ。妙に懐かれたというか、俺にしがみついていると安心するらしい。
俺は子供の頭を軽く撫でながら答える。
「うん。みんなの言う通り、一度王都に戻って現状報告をしておこう。この子も早急に孤児院に連れていくべきだろうし」
孤児という単語に暗くなる一同。決して俺たちのせいではない。それは分かっているのだ。しかしそれでも、この子の両親がもういないという事実は、俺たちの心を抉った。
「もっと早く到着していれば」
誰ともなく零した言葉は理想。もしくはただの願望だ。現実では、この世に救えない命が数多く存在する。今回経験した惨劇は、そのことを否応なく突き付けてくるのだった。
ねぇグレッグ。強くなっても救えない命はどうしたらいいの?
俺は、かつて悩みを打ち明けた兄貴分を思い出しながら、心の内で出るはずのない答えを探し求めた。




