187 極限の円舞
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閑話ではないですが、マルティナ視点で進みます。
私は焦りを感じていた。
通常のヘルウルフの倒し方は、三つの頭を全て斬り落とすこと。一つずつ順番に斬り落としていけばいいだけ。難しい相手じゃない。そう思っていたのだ。
「・・はぁはぁ・・・なんなのよこいつ」
ところが、目の前のこいつはそんな生易しい相手ではなかった。いくら斬ってもすぐに再生し、倒れる気配が微塵もない。
お店に出入りしていた冒険者の話では、普通はBランク程度の魔物。当然魔法なんか使えやしないはずなのだ。
「それなのに、このおかしな再生能力は一体なに?」
こいつは明らかに魔法らしきもの(?)を使って超回復している。どう考えてもAランクを超えた、Sランク相当の魔物とみていいだろう。
これほどの再生速度では、もはや三つの首を同時に斬り落とすくらいしか倒しようがなさそうだ。規格外れの図体といい本当に厄介な相手ね。
「でもって、あいつはさすがね・・・」
チラリと流し見たジェフリーの姿は、余裕しゃくしゃく。これっぽっちも危うさが感じられない。おまけに、こちらに加勢する素振りまで見せてくるんだから、ホントにまいってしまう。
「あんたの相手はそっち!」
その姿に少し安心してしまった自分が悔しくて、ついそんなことを言ってしまった。本当は結構キツイ。今にも押されそうになるのを必死で堪えているくらいなのだ。
でも、あいつにもあいつの妹にも格好悪い姿なんて見せたくない。特にあの女、もはや妹というより婚約者かっていうくらいジェフにべったりだし。私のことも相当嫌っている。ここで弱みなんて見せたら、絶対に突いてくるに違いない。
それに、私を信じて右頭を任せてくれたんだから、その期待に応えたいという思いもある。そうよ。やっぱりこんな相手にあいつの手は借りられないわ。やるのよマルティナ。あいつに追いつけるってことをここで証明するの!
「ちっ! あともう少しなのに!」
意気込んではみたものの、あともう一歩が遠い。ロザリーとジョーのように、手数で補うことができればいいのだけれど、一対一のこの状況じゃどうにも難しい。
「・・・やっぱり、アレを試してみるしかないわね」
覚えたてで、まだまだ未完成の技だけど、これが今の私の精一杯。一撃必殺の奥義(になる予定の技)だ。これでダメなら諦めるしかない。
「属性付与【重力】」
私の属性は重さを制御する力。これを使ってまずは剣を軽くする。
「威力は最大でいくわよ」
極限まで軽くなった剣を手の中でクルクルと回し、空気すらも切り裂く鋭い刃へと昇華させていく。鳴り響く風切り音を耳元に感じながら、みんなに向かって叫んだ。
「この一撃で決めるわ。みんな合わせて!」
全員が静かに頷くのを肌で感じる。私は敵の頭上まで駆け上がった。
「これでも喰らいなさい!」
剣がヘルウルフの首元に触れた瞬間、今度はこれを一気に重くする。
「蒼天流【円舞】!!」
高まった遠心力と数千倍まで増幅された重さが合わさり、地面に強く引っ張られる私の身体と剣。高速落下で意識が飛びそうになる中、伝わってきた感触は勝利だった。




