184 見くびらないで
子供を救出してしばらくすると全員が戻ってきた。
「生存者はいた?」
問うてみるが、しかし結果はある意味予想通り。全員が首を横に振るだけだった。
「そっか。俺のほうは一人だけ」
報告しながら、泣き疲れて眠ってしまった子供に目をやる。
「おそらく両親が命がけで守ったんだと思う。ちょうど瓦礫の下で、二人が覆いかぶさるようにこの子を抱きかかえていたのを発見してね・・・っとそうだった。もう一つこんなものも見つけたんだ」
続いて取り出してみせたのは、ポケットにしまっていた魔物のものと思しき赤い毛。近くにいたジョーが俺の手からそれをつまみ上げる。
「なんなん? これ」
「おそらく魔物の毛だと思うんだけど、誰か知らない?」
「これ・・ヘルウルフかも・・・」
ティナが魔物の毛を触りながらポツリと呟いた。
「ヘルウルフ?」
聞いたことがない魔物だな。どんな魔物なのだろうか。そう疑問を込めて尋ねてみる。
「うん。お店に来る冒険者から聞いたことがあるだけなんだけど。赤い毛並の、かなり大型の狼だって話ね。たしか、針のような毛を尻尾に生やしていて、首が三つあるのが特徴だって言っていたわ」
「その魔物、脅威度はどれくらいか分かる?」
「ん~普通はBランクって聞いたけど・・・」
少し躊躇いがちに答えるティナ。その戸惑いは、Bランクにしては町の荒れ様が悲惨すぎるからだろう。俺もいまいち納得がいかない。
「この被害状況を見る限り、Aランク以上なのは間違いないだろう。下手したらSランク相当の強力な変異種かもしれない」
ふむ。本当にどうしたものか・・・。
あれこれと悩んでいるところへ、エリーの声が上がる。
「お兄様。ここはいったん王都に戻って、騎士団の派遣を要請したほうがよろしいのではないでしょうか? その子の安全も確保しないといけませんし」
「うん。確かにそうしたいところなんだけれど・・・」
そもそも魔物の正体すらはっきりと分からない状態では、騎士団の派遣要請は難しい。調査隊の派遣くらいはしてくれるだろうが、対応に時間がかかるだろう。
冒険者ギルドに依頼するにしても、発注手続きに事前調査、やはり色々と時間がかかってしまいそうだ。
そうなると、俺たちのほうでも最低限、どんな魔物が犯人なのか、くらいは調査しておく必要がある。王都に戻って時間を無駄にするよりも、このまま俺たちで調査し、可能なら討伐まで済ませてしまうのがベストだろう。
ただこの場合、みんなの演習も中止になるし、なにより未知の危険に晒されることになるんだよな・・・。
「私たちのことを気にしてるならジェフリー。殴るわよ?」
無言の葛藤を続ける俺に、怒気をはらんだティナの声が突き刺さった。今までにないほど強烈な激しい怒りである。
「ティナ、でも・・・」
「同じことを言わせないで。いいからあんたの考えを聞かせなさい」
睨みつける鋭い眼光には「私も一緒に戦わせろ」という強い意思が感じられた。俺に有無を言わせないほどの圧力を与えてくる。
「はぁ。分かった。みんな、ちょっと聞いてくれる?」




