183 生存者はいるか?
町の中には、土台さえ見る影もなくなっている家が複数。かろうじて原型を留めている家でさえ、壁に大きな穴が開いてしまっている始末だった。どこもかしこも血に汚れていて実に痛々しい。
「誰かいないかー?」
俺は瓦礫の山をどかしながら、それらを一軒一軒回っていく。
「ん?」
そうして歩いていると、とある大きな家(おそらく商店か宿屋と思われる)の庭先に転がったボロボロの材木を発見。見てみれば、所々に赤い針のようなものが突き刺さっているではないか。
そいつを一本、材木から引き抜いてみた。
「硬いな・・これは・・・魔物の毛か?」
普通の獣ではありえない長さに太さ、そして鋭さをもつ毛。明らかに異質なそれは、間違いなく大型の魔物のものであろう。正体は知れないが、十中八九この町を荒らした犯人の痕跡とみていい。
「合流したらみんなに見せよう。誰か知っているかもしれない」
俺はそれをポケットにしまい、生存者の捜索を続けた。
――ゆっくり歩いて町の外れ。
いよいよ戻ろうかと思ったところで、どこからか子供のすすり泣く声が聞こえてくる。
「・・・っぐ」
声のする方へ行ってみると、瓦礫に潰された大人と思しき死体が二つ転がっていた。片方はズボン、もう片方はスカートを穿いている。大きな瓦礫のせいで膝から上は見えないが、服装から察するに男女の死体だろう。
俺はそこに声をかけた。
「誰かいるのか?」
「んんん!?」
すると突然。呻き声のようなくぐもった叫び声が聞こえてくる。どうやらこの瓦礫の下に誰かいるらしい。
「ちょっと待ってろ! 今助ける」
俺は強化した身体で大きな瓦礫をどかしていった。崩れないように慎重に。焦らず、でも素早く。神経をすり減らしながらゆっくりと作業する。
「ふぅ」
やがて露わになったのは、やはり若い男女の死体だった。二人は肩が少しだけ重なるように並んで倒れている。
「うお!?」
死体だと思っていた二人が、いきなりモゾモゾと動きはじめたため、思わず声を上げてしまう俺。しかし、それは俺の勘違いだった。
「誰か! 誰か助けてッ!」
しっかりとした声が聞こえてくる。死体を丁寧にどけてやると、そこには六歳くらいの子供が一人。血によって赤黒くなった衣服をグッと握りしめて泣いていたのだった。両親が体を張って守ってくれたのだろう。奇跡的に無事だったようだ。
「よしよし。大丈夫か?」
俺は子供をすくい上げて抱きかかえてやる。
「っぐ!」
子供はそのまま強く縋りついてきた。
「よしよし。よく頑張ったな。もう大丈夫だぞ」
震える背中をそっと撫でながら、先ほどの集合場所へと戻っていく。
さて、どうするかな・・・。




