182 トレローという町があった
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日も傾きかけてきた演習初日。
そこそこのハイペースで移動してきたため、丘陵地まではあと半分くらいの距離だ。このまま順調に進めば、明日には到着できるだろう。
俺たちは、今日三度目となる休憩時間を過ごしていた。
「このぶんなら、今日中にトレローっていう町までは行けそうだね。今夜はそこで宿をとりたいと思うんだけど。どうかな?」
俺はサチウス先生から貰った地図を広げながらみんなに問う。
「お兄様のおっしゃる通りでよろしいかと」
真っ先に賛同するエリー。
「いいんじゃない」
ティナたちも特に異論はないようだった。
「じゃあ、あと少し。今日はトレローまで行って宿をとろう。ちょうど男女三人ずつ二部屋で済むだろうし。これも必要経費だ。そこから先は宿もないだろうからね。今日くらいはゆっくりと休むとしよう」
ところがここで声が上がる。
「お兄様!」
「うん? どうしたんだい。エリー」
まさか宿泊費は経費に含まれないとか? だとすると少々困るのだが。
「わ、私たちは同室で良いのではないでしょうか!」
と思ったら、一体何を言い出すんだこの妹は。
「いや、兄妹だけれど・・・」
「バカじゃないの? それだと一部屋余計にとらなきゃいけないでしょ。それに今は演習中よ。兄妹がどうとか関係ないじゃない」
言いよどむ俺の横から声を上げたのはティナだった。エリーはそれを涼しい顔で受け流し、反論を口にする。
「宿泊費についておっしゃっているのでしたら、三人部屋を二つとるのも、二人部屋を三つとるのも大して違わないと思いますが? 兄妹であれば同室でも問題ございませんし」
「そういうこと言ってんじゃないのよ。わざわざそんなくだらない提案をする必要があったのかって言ってんの!」
「ええ。大いにありますわ。私、あなたと同室がどうしても嫌なんですもの」
「あん?」
「あなたのような野蛮な女性の隣でなんて怖くて怖くて。夜も眠れませんわ」
「はっ! 初日からへばるようなひ弱な女はこれだから。お荷物になってる自覚がなくて困っちゃうわね」
「ウフフッ! 本気でおっしゃっていますの?」
「フンッ! 当然じゃない」
や、ヤバい。これはヤバいぞ。今にも戦争を始めそうな雰囲気だよこの二人。怖すぎる! ていうか、なんでこんなに仲悪いの? お菓子作りで、多少は仲良くなったと思ったのに。二人の間に一体何があったんだ?
「そ、そろそろ出発しないと日が暮れちゃうな! 二人とも、話し合いはまたあとにして、とりあえず出発するよ!」
振り返れば、二人以外はすでに準備万端。今にも逃げ出しそうな様子であった。全くこちらを見ようとしないのは、きっと俺と同じ気持ちだからだろう。
出発準備が整ったみんなを見て、二人も矛を収めた。
「「チッ」」
ひぃいい! 舌打ちが怖いなぁ。
――そうしてさらに小一時間ほど移動を続けた俺たち。
しかし、到着したトレローという町には、俺たちが思い描いていた光景とは程遠い惨状が広がっていた。
「なんだこれは・・・」
尽く破壊された家々。むせ返るような死臭と血の染み込んだハエの山。ぱっと見た限り、あたりに生存者は確認できない。
「ん~ナニカがいる気配はないな・・・みんな。とりあえず、生存者がいないかを早急に確認したい。分担して捜索しよう。一時間後、またここに集合するってことでいいかな?」
俺の指示に全員が頷き、サッと散っていく。




