181 おぁうんっ!?
ひらひらとした漆黒のローブは、エリーの輝く金髪によく映えるようだ。
うんうん。さすが我が妹。何を着せても可愛いな。魔法使いの装いがここまで似合う女の子もそうそういないだろうね。
などと心の内で盛大な兄バカを披露しつつ、俺は本題に入る。
「ここに来たってことは、エリーが魔法学園側のメンバーかい?」
「その通りです。お兄様」
「で、もう一人は・・・」
上機嫌に抱き着くエリスを引き剥がし、その背後に目をやると、なにやら片膝をつけて頭を下げる男子が一人。髪は少し長めのボブスタイルで、華奢な身体つきをしている。
「お初にお目にかかります。ジェフリーお兄様。僕の名前はレオンハルト・ハイルドリッヒ。ハイルドリッヒ男爵家の次男で、魔法学園一回生の現首席です。また、今期生徒会の末席にも加えて頂いております!」
丁寧な自己紹介(自己アピール?)のあとに、勢いよく上げたその顔は中性的な印象。キリッという音が聞こえてきそうな、カッコつけたキメ顔が全く似合っていない。
さり気なく俺のことをお兄様と呼んでくるところも、なんだか変な感じだ。正直に言って気色が悪い。こいつは一体何なんだ? 首を傾げる俺に、彼の態度は一変する。
「あ、あの。お兄様。僕はですね、その、エリス嬢とこ、こここッ! 婚約したいと、か、考えておりまして。それで、あの・・・」
先ほどまでの堂々とした様子から、急に目を泳がせ狼狽えはじめたのだ。口をパクパクと動かし苦しそうである。
「おぁうんっ!?」
しどろもどろになりながら懸命に発した言葉から、レオンハルト君が俺の妹に大変気があるらしいということが分かった。なんてこった!
カフス。今ならお前の気持ちが痛いほどよく分かるぞ。目の前のクソ蟲を力づくで捻り潰したい気分だ。そうだろ?
しかし、ムクムクと湧き上がるこの感情をいきなりぶつけるわけにはいかない。見たところ凄くいい奴そうだし。理由もなく冷たく接するのはかわいそうだ。
というわけで、俺は努めて冷静に対処することにした。
「と、とりあえずエリーとのことは置いておこうか。それより出発準備のほうはいいかな? 俺たちはすでに済ませてあるんだ。今日のうちにできるだけ距離を稼ぎたいから、まずは早々に移動を開始したい」
自己紹介は移動途中、馬の休憩時にでもすればいいだろう。できれば課題のほうに時間を割きたいので、極力無駄な時間は使いたくない。
広い丘陵地の調査から始めなければならないから、二週間のタイムリミットは中々にハードなのだ。
「は、はい!」
レオンハルトはこの提案に勢いよく頷き返すと、馬を二頭引き連れて戻ってくる。エリーの分まで連れてくるとは、こいつやっぱりいい奴だな。だからといって、そう簡単に認めるわけにはいかないが・・・。
「それじゃあ出発する。隊列は二列縦隊。ジョーとロザリーが前方で俺とティナが後方。エリーとレオンハルトは俺たちの間を走ってくれ。馬の疲労を確認したら、すぐに俺に合図するんだ」
こうして俺たちの長い合同演習が始まったのだった。




