176 欲張りなんです
アンヌさんの鋭い眼差しを真っ直ぐに見返し、俺は言う。
「はい。お願いします」
俺はきっと大馬鹿野郎だ。自ら苦しい道を歩んでいる。剣も魔法も極めようなんて、欲張りにもほどがあるだろう。
でも、それでも。俺はもっともっと強くならなければいけない。逃げ出せない理由があるのだ。騎士への憧れだけじゃない。守りたい人たちも大勢できた。
そしてなにより・・・。
「俺を信じて待っている仲間がたくさんいる。こんなところで、立ち止まっているわけにはいかないんです。それが俺の、あいつらへの恩返しでもあるから」
学校を変えたみんな。クリスにカフス、そしてきっと、ザッシュだって。俺が上ってくることを期待している。だが、今のままではあの頂には到底届かない。更なる修行が、成長が必要だ。
それに、俺がザッシュのケツをひっぱたいてやんないとね。
俺の本気が伝わったのだろうか。やがてアンヌさんは、圧を弱めて軽く頷いてくれた。
「なるほど。君が本気で、私に魔法を習いたいというのは分かった」
「それじゃあ!」
「だが」
食い気味に返す俺を制し、言葉は続く。
「だがまずは、騎士の必須技能【纏い】をある程度使えるようになったほうがいい。あれは剣に魔力を絶えず循環させる特殊技能であり、精密な魔力コントロールが必要な技能だ。魔法を習得するのにも大いに役立つ。それに、あれが使えないと、強力な魔物とは戦えないからね。きちんと学んできなさい」
たしかにアンヌさんの説得には一理ある。俺も少し逸り過ぎたようだ。でも一つだけ言わせて頂けないだろうか。
「アンヌさん。それを教わるのは、早くても二回生以降なんです。一回生で【属性付与】を教わるのは、剣に魔力を通す感覚を養うためだと、先生が言っていました。この場合、“ 無属性体質 ” の俺はどうなるんでしょうか。がむしゃらに練習しても全くできる気がしません」
「あ・・あ~どうだろう・・・」
なぜか首を傾げ、目を泳がせまくっているアンヌさん。
ちょっと! 何なんですかそのビミョーな顔は!
ま、まさか教われない? いやいや、そんなことないよね? サチウス先生に要相談だなこれは。これから先、【魔装】だけじゃさすがにやっていけないよ~!!
ってそうだった! 【魔装】のこと、アンヌさんに教えてなかったよ。見せたらどんな反応をするんだろう。できればこれをもっとうまく使いこなすヒントとか教えてくれないかなぁ。
「アンヌさん」
「ナ、ナニカナ?」
「俺、最近こんな技が使えるようになったんです」
言いながら手に魔力を集中させる俺。
「これ、硬度も高いし、結構強い魔物相手でも使えそうなんですが、もっとうまく使いこなせないかなって思ってて・・魔剣【カラドボルグ】・・・どうですかね?」
そうして出現した特殊な剣。なんだかんだで俺が一番使い慣れているいつもの剣をアンヌさんに差し出してみた。結果は・・・。
「うん?!」
変顔がますますひどくなっただけである。




