173 アンヌさんの魔法講座中級編
「・・・というわけで、俺は【属性付与】が使えないそうなんです」
学校長から聞いた話を一通り語り終えた俺。
「ふむ。なるほど。やはりそうか」
アンヌさんは特に驚くこともなく一つ頷き、納得顔を見せる。どうやら “ 無属性体質 ” というワードについても知っているようだ。これは何か聞けるかな? 俺は淡い期待を滲ませて問うた。
「やはりって、アンヌさん。何かご存じなんですか?」
「ん? ああいや、特に確信があったわけじゃないよ。ただ、学校長の言った通り、“ 無属性体質 ” というのは非常に稀なんだ。そしておそらく “ 無属性体質 ” の人間には共通点がある」
「共通点ですか?」
なんと! さすが魔法のスペシャリスト。そんなことまでご存じとは恐れ入る。もしや “ 無属性体質 ” の知り合いでもいるのだろうか。
「そうだねぇ。昔、君が初めてここに来た時のことを覚えているかい?」
軽くあごを触りながら、アンヌさんがそう聞いてくる。あれは確か実家を出てすぐのころ。ウラノスの街からこの店にやってきた時だったっけ。
「えっと、『銀の風』のミレーヌさんに連れてきてもらった時のことですよね?」
「ああ。私が君に初めて魔法を教えた時のことだ。ちなみに『銀の風』の子たち、この間、無事Aランクに昇格したらしいよ」
えっ!? あの三人。そんなに出世してたの?
「それはおめでたいですね!」
おっと。思わず自分のことのように喜んでしまったよ。だってあの三人、少し年上の兄弟みたいというか、友達みたいな感じだったから。なんか無性に嬉しいんだもの。
「フフッ! ああ。ウラノスじゃあ、ちょっとした有名人になっているようだよ」
アンヌさんは俺の心を見透かしたように笑い、言葉を続けた。
「とまあ、そっちは置いておいて話を戻そう。あのとき私は、君は “ 稀な才能 ” を持った人だと言っただろう?」
「あ~はい」
たしか “ 放出 ” と “ 循環 ” の両系統の魔法が扱える “ マルチ ” だったっけ。そのおかげで魔力を具現化する【魔装】が使えているんだよね。
「私が知っている “ 無属性体質 ” の人間は全て、君のように魔法の才能に富んだ人物だった。そして、彼らはみな魔法使いだったよ」
「騎士を目指した人はいなかったんですか?」
「ああ。いなかったね。騎士になるためには、常人よりも強靭な精神力と圧倒的な戦闘センスが必要とされるからね。そう簡単じゃないさ」
たしかに。魔法の才能があったところで、剣を振れなきゃ意味がない。しかもよく考えたら、【魔装】を使うための膨大な魔力も必要だ。俺はなんて運が良いのだろう。
「そして、彼らが魔法使いになるのは、物凄く当たり前の選択なんだ。なぜなら “ 無属性体質 ” の人間には、魔法の得意不得意がないのだから」
「得意不得意がない? 全て不得意というわけではなく、ですか?」
「うむ。それは勘違いだね。【属性付与】を使用するためには、【属性紋】との相性が良くないといけない。この相性というのはつまるところ、得意な属性であるかどうかが重要なんだ。普通レベルに使えるものを得意とは言わないだろう? そして不得意とも言わない」
なるほど。俺には得意な属性がないというだけなのか。でもそれって、結局なんの解決にもならないんだよな・・・。
そんな俺の心を見透かしたように、アンヌさんはパンッと手を叩いて、こんなことを言い出した。
「よし! じゃあちょうどいいから、ここで少し魔法の知識を教えるとしよう。学校でもそのうち教わるかもしれないが、早くても損はないだろう?」
アンヌさんの魔法講座中級編の開始である。




