172 藁にも縋る
お読み頂きありがとうございます!
学校長の話によると、自身の魔力をそのまま火や水に変換する放出系魔法と、剣を媒介に発動させる【属性付与】ではそのプロセスが異なるらしい。
前者の場合、適正の有無は得意不得意程度の意味に過ぎない。しかし後者の場合には【属性紋】を使用する関係上、各属性の適正が必要不可欠なのだそうだ。
困ったことに “ 無属性体質 ” の俺には、その適正が1ミリもない。だから、【属性付与】を使用することができないのだという。
どうにも納得のいかない俺は、放課後、とある人物のもとを訪ねることにした。もう藁にも縋る思いである。
「なんだか、ここに来るのも久しぶりだなぁ」
空に浮かんでいるのか、それとも水面に浮かんでいるのか。この世のものとは思えない幻想的な空間にポツンと佇む一軒のお店。
「・・すぅすぅ」
店の扉を開くと、奥のカウンターにボーイッシュなイケメン風の美女が一人。三年前と全く変わらない肌艶と健康的な短髪で、気持ちのよさそうな寝息をたてている。
「アンヌさ~ん。起きてください」
「・・・・すぅすぅ」
「アヌえも~ん。助けて~!」
「・・・・すぅすぅ」
うんうん。これもいつも通り。起きる気配が微塵もないね。この人、一日にどれだけ寝ているんだろう。もしや、人生の八割ぐらい寝ないと死んじゃう病気にでもかかっているのだろうか。
でも今回はすみません。無理やり起こさせて頂きます。あなたの起こし方はすでに心得ているので。
嗚呼エリーよ、ついにお前直伝の秘技を使う時がきたみたいだ。フッ。華麗にキメてみせようじゃないか。必殺 “ 師匠起こし ”!
「オ・キ・ロ」
純度百パーセント本気の殺意を込めた低~い声音。それを言の葉にのせて、形の良い耳からゆっくりと流し込むのだ。
「っ!?・・・フギャッ!」
するとどうだろう、魔道具屋『トイボックス』の店主 “ 居眠りのアンヌ ” (命名は俺)がビクンと飛び上がり、そのまま椅子から転げ落ちた。見事にクリーンヒットしたみたいだね。
妹よ、お兄ちゃん、ついにやったよ・・・。
「痛たたぁ・・・だ、誰だ。こんなイタズラをするのは!」
やがて不機嫌そうに腰をさすりながら立ち会がったアンヌさん。すっかりバッチリ目が覚めているご様子だ。
ちょっと申し訳ないけれど、こちらも緊急なのでどうか許してください。俺は心の中でしっかりと謝りつつ、その懐目掛けて、グンッと詰め寄る。
「アンヌさん。ちょっと俺の話を聞いてください! 緊急なんですッ!!」
「じぇ、ジェフリー君?!」
引き気味のアンヌさんは、涙目(演技)で縋りつく俺を見て目をパチクリ。驚いた様子で歓迎してくれたのだった。助けてアヌえも~ん!




