171 もしかしてヤバい体質なの?
サチウス先生に連れられ、学校長室の扉を潜る。
目に飛び込んできたのは、渋色の机と入学式で見たあの人物だ。一見すると華奢だが、芯から鍛え抜かれた貫禄が漂う色黒の男性。少し白髪の混じった黒髪と整ったあご髭がダンディな大人の色気を醸し出している。
書類を眺める学校長にサチウス先生が話しかけた。
「学校長。緊急のご報告がございます」
「どうした?」
「はい。実は、授業で使用していた “ 属性晶 ” が・・・爆発しました」
「なにっ!? 生徒に怪我は?」
これを聞いた瞬間。学校長は書類を投げ捨てて目を剥く。あまりにも驚きすぎて目が落っこちそうだ。
「いえ。それについては問題ありません」
「ふむ。それなら一安心だ。で、原因はなんだ?」
「それが・・・」
ここでサチウス先生が俺のほうを見て合図してきた。説明しろということか。
「私が魔力を流したところ、突然 “ 属性晶 ” が光り出し、次の瞬間には粉々に砕け散っていたのです。詳しい原因は、正直分かりません。ただ誓って故意ではありません」
「ん? 君は?」
「彼は私の担当する一回生Aクラスの生徒で、ジェフリー・カーティスと言います」
「カーティス? その家名はどこかで・・いや、しかし・・・」
俺の顔をジッと見つめながら、首を傾げる学校長。
「昔の彼には全く似ていないが、まさか君が噂のカイル殿の息子か?」
そういえばこの学校長、父さんの先輩だったね。たしか父さんが入学したときに十傑第一席にいた人だったっけ。強引に席を奪った父さんのこと、恨んだりしていないといいけど。
「は、はい。おっしゃる通り。カイル・カーティスの子で間違いありません」
「なるほど。あの人の息子か。フフッ・・・フハハハッ!」
内心でちょっぴり怯える俺とは裏腹に、学校長は急にお腹を抱えて笑い出した。
「えっと・・・」
「ああいや、申し訳ない。あまりにも似ていないからつい。学生時代の彼は、それはもう傍若無人というか、礼儀なんて殴り倒すみたいな生徒でね。顔もこんなにハンサムではなかったし。いやはや、どうやったらあのゴリ・・・野人からこんな息子が生まれるのか。世の中、不思議なこともあるものだ。フハハハッ!」
今ゴリラって言おうとしましたよね? それに野人って、あんまり意味変わっていませんよ学校長。まあ、それも父さんの自業自得といえばそれまでなんだけれども・・・。
「あ~よく言われます。なんか、父が色々とすみません」
「フッ。まあいい。その辺については今度ゆっくり話してあげよう。で、“ 属性晶 ” のことだったな。飛び散った破片を見せてくれ」
「あ、はい」
俺は布に包んで持ってきた残骸を、机に広げてみせた。学校長がその破片を手に取り、入念に観察する。やがて開いた口からは、謎のワードが飛び出した。
「ふむ。君はどうやら “ 無属性体質 ” のようだ」
「“ 無属性体質 ” ですか?」
「ああ。非常に稀な体質で、私も話にしか聞いたことがなかったが・・・」
ちょっと待て。なんだその憐れむような目は。もしかしてヤバい体質なの? 俺は恐る恐る問うてみる。
「“ 無属性体質 ” だと、どうなるのでしょうか?」
「結論から言うと、“ 無属性体質 ” の君では【属性付与】を使用することはできない」
「・・・・・え?」




