19 領主の館②
門から続く回廊は美しかった。
左右に咲き乱れる色とりどりの花たち、綺麗に敷き詰められた石畳は立ち位置によって様々な模様に見え、それがいっそう美しい。
さらにこの石畳、雨水の通り道まで計算され尽くした機能的な配置であることが伺える。きっと雨が降ったら、また違った趣を見せるに違いない。
そうして歩いた先には立派な庁舎。
両の扉には、双頭の龍の紋章がある。
これはグレイシス辺境伯の家紋だ。
ああ、名家の威厳を感じるな。
グレゴリ部隊長は扉を開けると、俺に中に入るように促す。
そして庁舎の中は・・・
非常に騒がしかった。
床は光が反射するほどに磨かれた純白の大理石に綺麗な絨毯張りで、天井にはこれまた豪華なシャンデリアが輝いている。おまけに左右に見える階段には綺麗な装飾が施された木造りの手摺りまでついているから驚きだ。
まさに豪邸!アンティーク調な素晴らしいお屋敷みたい!
にもかかわらず、静謐な空気はかけらもなく、落ち着いた雰囲気も一切なし。
ただただ、職員たちが右から左へ、上から下へ、バタバタと走り回っている。
茫然とする俺の前を、書類を抱えた女性が横切ろうとした、その時だった。
「あっ!」
絨毯の張られていないところをカツカツと速足で駆けていた女性が足を滑らせ、書類を手に掲げた状態で背中からゆっくりと床に近づいていく。
「!!」
俺は転びそうになったその人を見て、咄嗟に飛び出していた。
俺の身長は140cm程度、女性の方は160cmはある。身長差的にも抱きかかえるのは難しいだろうから、勢いを殺しつつ床に下ろすくらいしかできなそうだ。
対応を瞬時に考えつつ、女性と床の間に滑り込み、背中を支えつつゆっくりと床に下ろす。
「!!」
「・・・ふぅ。間に合った~。」
「あ、あの・・・」
「大丈夫でしたか?」
「・・・///」
「?」
「はっ!? だ、大丈夫れす!! です!! ありがとうございましたあぁぁ!」
女性はすぐさま立ち上がると、そそくさとどこかへ行ってしまった。赤毛の三つ編みにメガネで、ちょっと地味な感じだったけど、可愛らしい顔立ちの魅力的な女性だったように思う。
役得(?)だったかな。
物思いに耽る俺に、グレゴリ部隊長が声をかけてきた。
「いや~さすがカーティス家のご子息!素晴らしい瞬発力に判断力でしたね!」
「・・・ハハハ。ありがとうございます。しかし、皆さん随分と慌ただしいですね。」
「こちらの南の館は現在、財務部の管轄でして。今の時期ですと領地内から集められた税の計算から各事業でかかった費用の収支計算、その他領地運営でかかった費用などなど、色々と忙しい時期なのです。」
「そんな忙しい時期にお邪魔してしまって申し訳ありません・・・」
「いえいえ、慌ただしいのはここだけですから。さ、領主様の館はこの先になります。」
とりあえず俺は、前を歩くグレゴリ部隊長を追いかけた。