167 いつから錯覚していた?
剣を抜き放ち一息に距離を詰める俺。
「ちっ!」
ヤツは舌打ちをすると、俺の攻撃を軽々弾き返してきた。そこからさらに、反撃までしてくるほどの技量も持っているらしい。
「意外としっかり鍛えているようだな」
「うるせぇ。これは彼女に認めてもらうためだ」
これまで懸命に鍛え上げてきたというのは確かなのだろう。前後への移動が小刻みで緩急があり、力の入れ方も絶妙だ。いわゆる一撃離脱法というやつを熟知した動きである。五年間剣を振り続けてきた “ 正当な実力 ” が彼にはあった。
「それなのにどうして・・・」
「限界が見えてるからだ。ここがオレ様の限界点。もうこれ以上、上へはいけない。それを嫌と言うほど思い知らされた」
「だからって他人を傷つけるな! 踏み台にしていい人間なんてどこにもいやしない。ましてや、お前の都合で暴力を振るわれていい人間なんて、いるはずがないだろッ!!」
「うるさい! オレ様にはもう時間がないんだ。なりふり構っていられるか! オレ様はあらゆる力を駆使してお前に勝たなければいけないんだ!!」
「俺だって負けるわけにはいかな・・・っ!?」
ヤツがニヤリと笑った瞬間、俺の立っていた地面が突然爆発した。
「チッ。逝かなかったか。まあいい。依然、圧倒的に有利なのはオレ様のほうだ」
ギリギリのところで【空走】による回避はできた。だが、今のは一体どういうことだ? ヤツが何か罠を仕掛けた? いや、それはない。なぜなら、始めから俺たちはこの『草原』のど真ん中で向かい合っていたからだ。
「おいおい。なに戦闘中に考え事してんだ? おらぁあああ!!」
「んぐっ!」
足元を警戒していたら鋭い突きが飛んできた。掠っただけだ。まだイケる。
「そこは危ないぜ?」
「なにっ!?」
まただ。また地面が爆発して・・・・いや、ちょっと待て。なんでこいつは知っているんだ? それに、自分が有利とも言っていた。もしかして、このフィールド自体が特殊なのか?
「おっと、もう気付いたのか? ご明察の通り、このフィールドはただの『草原』じゃない。『地雷原』だ。おかしいと思わなかったか? 開始地点からすでに、向かい合うほど近くに相手がいるなんて」
こいつ、フィールドまでいじりやがったのか。生徒の退学を阻止できるくらいだ。それくらい可能なのだろう。
「おいおい勘違いするなよ? フィールドの仕様はもとからだ。別にわざわざ作り変えたわけじゃない。まあ『地雷原』でお前と戦うことは決まっていたけどな」
「つまり、ご自慢の権力とかいうやつで、俺との対戦を仕組んだ。そう言うんだな?」
「ああそうだ。初見のお前には分からないだろう? どこに地雷が埋まっているのか。オレ様が有利なのはそういうわけだ」
「たしかに分からない。だが関係ないな」
「なに?」
「【空走】!」
分からないなら地面に足を着かなければいい。絶えず空気の足場をつくってそこを移動するのだ。ただ問題は魔力切れになることだが・・・。
この消費量は流石にこたえるな。もって三十分ってところか。燃費の悪い【魔装】なんて併用すれば、五分とかからずガス欠になるかもしれない。
「とっとと決めさせてもらう。はぁあああ!【風斬】ぃいい!!」
俺は前かがみの姿勢から、勢いよくヤツに突っ込んだ。




