166 正当な実力
――そして現在。
俺の目の前には、青々とした『草原』と大声で叫び散らすブタ野郎が一人。
「五年かけてようやく45位。オレ様の順位は、そこから一向に上がらん。なぜだか分かるか? 一つ下の四回生、あの世代のヤツらが、この学校を牛耳っているからだッ!!」
「いや、俺に言われても・・・」
むしろ、なんでそんなことになっているのか、俺が聞きたいくらいなんですけど? 俺の都合を完全に無視してくるあたり、本当に厄介極まりないブタ野郎だな。
「大体お前らは予備校のころからおかしかった。入校してすぐにクラス全員が強固に団結。本来貴族の踏み台となるはずの下等な平民までもが、圧倒的な高成績で課程を修了している」
うんうん。ウィル教官から「このクラスは歴代最高だ」って褒められるくらいだったからね。あれは俺たちの誇りですよ。俺とティナだけ三年遅れだったけども。
「そして、ヤツらはそのまま騎士学校に入学してくると、今度は学校を変えやがった」
「学校を変えた?」
首を傾げる俺にルイスは続ける。
「そうだ。ヤツらが入学してくるまで、平等なんて文句は、所詮建前に過ぎなかった。オレ様たち貴族が権力と財力を使えば、成績なんて余裕で買えたのさ。ルール上、生徒同士の事前交渉は禁止されていないからな」
つまり八百長ってやつか? なんてくだらない。バカげている。そんなの順位戦じゃなく、ただの権力自慢大会じゃないか。
「だが、ヤツらが入学して一年二年。気づけばこの学校は実力至上主義へと変貌し、ヤツらが支配する魔境となった。順位を上げるためには “ 正当な実力 ” が必要とされる時代になってしまったんだ!」
なーんだ。あいつら真っ当じゃん。俺が眠っていた三年間、学校を良くしようと頑張ってくれていたんだな。仲間として凄く誇らしいよ。
「それもこれも、全部お前のせいだ!!」
「なぜそうなるッ?!」
仲間たちへの感謝と尊敬を噛み締めているところに、意味不明な罵声。俺は思わず声を出してツッコんでしまった。何を馬鹿げたことを言い出すんだこいつは。
「黙れッ! オレ様は知っているぞ。ヤツらがこれほどまでに成長したのは、ジェフリー・カーティス。間違いなくお前の影響だ。英雄の息子であるお前のな!!」
「俺にそんな力は・・・」
「ある! 過去の真実は知らずとも、ヤツらはお前の背中に “ 英雄 ” を見ている。そしてなにより、バラバラだったヤツらを一つにまとめ上げたのはお前だろう!!」
「それは・・・・」
ぜ、ゼロとは言えないかもしれない。クラスが団結したのは、俺とティナが始めたダンス練が発端だったし。三年前のあの事故はみんなを変えた。そう考えると、半分くらいは俺のせいなのかも?
「フッ! ようやく理解できたようだな。少しでも罪悪感があるなら、ここでオレ様と賭けをしろ」
「賭け、ですか?」
「オレ様が勝ったら、ヤツらを説得してオレ様を第一席に推せ」
なるほど。こいつの目的はこれか。さっきから聞いていれば、好き勝手言いやがって。平民は踏み台? 成績は金で買え? ふざけんなよ。腐っているのはお前のほうだ。誇りのない奴に騎士を語る資格はない。
「くだらねぇな」
「あん?」
「その賭けにのってやるって言ったんだこのブタ野郎。ただし俺が勝ったら・・・・即刻学校から消え失せろ!」




