165 ヴァレン何某のつまらない事情
45位ルイス・ヴァレンティーノのことを俺は知らない。
そう思っていたのはつい先ほどまでである。
なるほど。対峙してみれば、たしかに見覚えのある黄色い髪のブタ顔だった。
「おい。ジェフリー・カーティス。貴様、オレ様の話を聞いているのか?」
「え、ええ。聞いていますよ」
「お前のせいで予備校の後輩共が全く手を抜かん。これではオレ様が騎士学校第一席の男として卒業できないではないか! どうしてくれるッ!!」
「は、はぁ」
そう。なんとこのヴァレン何某とかいう人。実は予備校時代の先輩にあたる人だったのだ。おそらく以前、寮の食堂で顔を合わせている。
まあだからといって、俺の大切な友人を痛めつけてくれたお礼に手を抜くことはしない。むしろ容赦なく叩き潰してトンカツにしてやる所存だ。
それなのになぜこのような会話をしているのか。理由はこれである。
「このままじゃオレ様が婚約できないんだ! さっさとなんとかしろ!!」
俺にとっては甚だ訳の分からない言い分だが、彼にも色々と切羽詰まった事情があるらしい。頼んでもいないのに、彼はそれを涙ながらに語ってきたのだ。
――まだ幼かった時分。
彼はお茶会で、とある姫君に一目惚れをした。
彼女の名はファイエット・グレイシス。我が妹エリスと大変仲の良い、グレイシス辺境伯家のご令嬢である。なお、現在は二人とも魔法学園にて活躍中。
激しく萌える(?)恋心を胸に、いざ婚約を申し込んだルイスだったが、あえなく轟沈。残念なことに、全く相手にされなかったのだという。
「家柄としても申し分ないはずなのに、なぜダメなのか」
彼女に理由を問えば、返ってきたのはこの言葉。
「お父様のように強く逞しい人が好みなのです。そのような、だらしのないお姿の人と一緒になることはできません」
それを聞いたルイス少年はひたすらに自分を鍛え上げ、大幅な減量に成功。騎士予備校にも多額の寄付をし、見事、王立騎士学校に入学した。
肥満体形を克服し、これで彼女をものにできる。そう喜び勇んで、再特攻をかました男ルイスだったが、やはり女神は無情なり。首を縦に振ることはなかった。
「これほど強く逞しい男になったのに何がダメなのか」
再度問うた彼に、ファイエット嬢は言う。
「まだまだ強さが足りません。それに、正直顔が好みじゃありませんの」
心臓をズドンッ! 槍で貫かれたような痛みを感じながらも、強く逞しくなったルイスはギリギリのところで踏みとどまった。
「くっ! ならば、どうしたら認めてくれるのか」
「例えばそう。騎士学校の頂点。そこに咲く唯一の花を卒業の日に捧げて下されば、あるいは・・・・・わたくしの心も揺れるかもしれませんわ」
「分かった。必ずや捧げてみせよう」
「これが最後のお願いです」
そうして、彼女が涙ながらに課した最後の試練。いや、試恋をのり越えるべく、彼は騎士学校にて更なる研鑽の日々を過ごすこととなった。らしい。
この話を聞く限り、どう考えても脈はない。どころか、泣いてお願いされるほど嫌われていたとしか解釈できないんだが。“ 最後 ” という言葉が、彼には全く違う意味に聞こえたようだ。
あれ? そういえば、昔クリスに連れられて行ったお茶会で彼女に何か言われたな。たしかあの日は、彼女と初めて会った日で・・・そう「必ず騎士学校に入学してください」みたいなことを言われた気がする。
まさかあれって・・・。




