164 意外と元気なお猿さん
閑話ではないですが、ジョー視点での進行です。
彼は意外と打たれ強い……。
ジェフリーの放った蹴りは、わいの頭上。のっけられた足ごと上級生の男を吹き飛ばした。
「ぐぁあああっ!」
肉が潰れるような鈍い音がしたが、どうやら骨までイってしもうたみたいや。男は足をおさえて泣き叫ぶ。が、ジェフリーはそれを一瞥するのみで、すぐに残りの四人に目を向けた。
「てめぇ!」
「やりやがったな!」
「すり潰す」
「全員でやるぞ」
ジェフリー一人に、同時に襲い掛かっていく上級生たち。しかしそんなん、あいつには関係ないらしい。取り囲まれた状態から、まずは正面の男へ鋭い踏み込みのボディブロー。
「んぐッ」
腹を押さえて崩れる男のこめかみにすかさず裏拳を叩きつけた。
「「っんのやろう!」」
次に左右から殴りかかってくる二人。高速で迫ってくる拳を半歩で躱しつつ掴みとると、勢いを殺さずに流れるような動作で投げる。
「アガッ!」
「んぐッ」
背中を地面につけた二人は、すぐさま顎を強かに蹴りつけられ昏倒。残りは早くも一人になってしもうた。
「ちくしょうが!」
追い詰められた最後の一人が剣を抜き放ち、目で追えないほどの速さで振り下ろす。
「っ!?」
が、ジェフリーはそれをスルリと躱し、男の懐へ。すくい上げるような掌底で四人目の意識を刈りとった。
ひぇえええ。さっきの斬撃、わいには速すぎて見えんかったで。あいつ、なんであない簡単に避けられるんや。おまけに汗一つかいとらんし、バケモンにもほどがあるやろ。
「ふぅ。とりあえずこんなところかな。あとは・・・」
ジェフリーは足を引きずって逃げようとする男に近づく。
「あの、ルイス・ヴァレンティーノって人のこと教えてもらえます?」
それはまるで、道でも尋ねるような気楽な声音やった。おいおい。ついさっきまで戦闘中やってんぞ。表情変わりすぎちゃうか?
「くっ! 誰が教えるかこのクソが!」
「まあまあ。そう言わずに。何ならもう一本いっときます?」
ひぃいいい! まるで「エールもう一本いっときます?」みたいな軽いノリやけど、もう片方の足まで砕こうとしとりますやん。
「そ、そんな脅しには屈さないぞ」
はよ吐けや。あのごっつぅ殺気が見えんのかい! 死ぬぞわれ。
「それは残念です。じゃあ・・・」
足を振り上げたジェフリー。男の顔が真っ青になる。
「ま、待て! 分かった。いや、これは独り言だ。聞くなら勝手にしろ」
「はぁ。それで、ルイス・ヴァレンティーノってどんな人なんですか?」
「ルイス様はヴァレンティーノ公爵家の次男であらせられるお方。お家柄、学内外で強い影響力をお持ちだ。そして、現五回生の中でトップクラスの実力者でもある」
ヴァレンティーノやって!? 財務部のトップやんけ。ジェフリーのやつ、なんでそないな輩に因縁つけられとるんや。まああの様子やと、どうにも身に覚えがなさそうやけど。
「へぇ~そんな凄い人が。それで? どうしてわざわざこんなことを?」
「それは知らん。俺たちはお前の弱みを探るように依頼されただけだ。退学取り消しを条件にな」
「本当ですか?」
「ほ、本当だ!」
「ふ~ん。あ、そうだ。ついでにルイスさんの得意属性を教えて下さい」
「それは教えられない」
「はぁ。そうですか。じゃあ最後に一つ、伝言をお願いしてもいいですか?」
きっぱりと断った男に、興味なさげに引き下がるジェフリー。案外あっさりやな思たら次の瞬間。雰囲気は一変し、濃厚な殺気が場を満たす。
「ひぃっ! な、なんだ?」
震えた声で返された問い。ジェフリーはドスの効いた声で静かに言った。
「お前は必ず叩き潰す」
わ、わいのためにそこまで!? くぅ~惚れてまうやろ~!!
「さてと・・・大丈夫か? ジョー」
笑顔で手を差し出してくる爽やかなイケメン。ウホッ。か、かっこええな・・・。
「ジョー?」
「へっ? あ、ああ大丈夫や。ありがとう」
妙な金縛りが解け、ゆっくりと立ち上がったわい。ところがジェフリーは、急に深刻そうな顔を見せはじめる。
「おいジョー。お前本当に大丈夫か?」
「なんや? 急に」
「いや、なんか、尻から長いうんこが垂れてるぞ?」
「あ~さっき尻も腹もしこたま蹴られてん。衝撃でついプリッと出てもうたんや・・・ってこんな長い糞あるかい!これはわいの尻尾やアホ!!」
「アハハッ! 元気そうだな」
「ほんまええ加減にせぇよ!」
ありがとさん。




