163 見覚えのある男たち
無事にデートを終え、辺りはすでに暗い。ティナとわかれた俺は鼻歌交じりに寮へと帰る途中であった。
「ん?」
しかしそこへ、どこからか男の怒鳴り声が聞こえてくる。
「・・・っとと吐けや!」
「・・・んません!」
「なんかあんだろッ!」
「グヘッ! す、すんません」
チラリ。覗いてみると、何やら見覚えのある男共と、これまた見覚えのあるクラスメイトがいた。なぜか地面に頭を擦りつけて、男共に必死に謝るジョー。男共は寄ってたかってそれを蹴りつけている。
見たところ、自慢の長い尻尾を踏みつけられており、思うように起き上がれないみたいだ。
「使えねぇなぁ!」
「ゴフッ! す、すんません」
「てめぇあいつと同じクラスだろうがッ!」
「フグッ! あ、あいつの弱みなんて」
「ああくそっ! 時間がねぇ。ルイス様の試合、もう明日だぞ!」
「ヒグゥッ!」
ジョーを蹴りつけて怒鳴り散らすのは、入学式の日に絡んできた上級生五人組。あいつら、まだこの学校にいたのか。おいカフス。お前の粛清はぬるかったみたいだぞ。
「このままだと俺たち確実に退学じゃん・・・」
「いい加減、何かしら情報を持っていかねぇとマズいぜホント。いよいよ切り捨てられる」
「つってもさぁ。さすがに実力で負けるとは思えねぇけどな。ジェフリーって所詮一回生だろ? なんでルイス様はあんなに必死なんだ?」
「んなの分かんねぇよ。ただ、この学校に入る前からあいつのことは知ってたらしいぞ。あいつのせいでとかなんとか、昔なんかあったんじゃねぇか?」
「まあいずれにしろ、かなり強ぇのは確かだろ。あの一年。順位もすでに俺たちより上だし。万が一に備えて使えそうな手札の一つや二つ、持っておきたいっていう感じなんじゃね? 知らんけど」
と思ったら、ルイス様とかいう貴族があいつらの退学を強引に阻止していたようだ。いや待て、この学校でそんなことできるのか? だとすると、相当な権力者ということになるが。
そういえば俺の次の対戦相手、ルイス・ヴァレンティーノって言ったっけ。ヴァレンティーノ家? う~む。どっかで聞いたような聞いてないような・・・正直記憶にない。
どうにも思い出せないが、まあいいや。そんなことより、今は目の前のやるべきことを片付けよう。そろそろ限界だ。
五人の男は言い合いながらも、蹲るジョーの背中に振り下ろす足を止めない様子。ただひたすら「すんません」とだけ謝り続けるジョーの制服は、泥と血にまみれ、痛々しく汚れている。
ボロボロになった友人の姿に、沸々と湧き上がる憤り。俺は上着を脱ぎ捨てて、彼らの背中に声をかけた。
「あの~お取込み中のところ悪いんですけど、ちょっといいですか?」
「あん? 今忙しいからあとにし・・・ろっ!?」
振り向いた男を睨みつけ、そのまま足を振り上げる。
「いい加減その汚ぇ足を退けろ」




