18 領主の館①
馬車に揺られること数十分、ようやく街の中心である領主の館へ到着したようだ。
門から一直線のはずなのに、かなりかかったな。
どれだけ大きいんだこの街は・・・
「ジェフリー様、到着致しました。こちらが、グレイシス辺境伯領領主館にございます。」
「・・・ふわぁ」
こ、これはすごい!本当に開いた口が塞がらない。
まず、目の前にある大きな格子門。
一見するとゴツイ感じに見えるが、細かな装飾が施されていて、まるで植物の蔓のようになっている。さらによく見てみると、所々に小さな花のような装飾もあり、これだけでも相当な芸術品ではないだろうか。
そして、門の向こうに見える建物たち。
そう、不思議なことに軽くウチの数倍はありそうな大きさの建物が正面に一つと左右に二つ見えるのだ。真ん中の一つは正面を向いているが、左右の二つは建物の側面のようだ。おそらく、この二つはそれぞれ西と東を向いているのだろう。
どこかのお金持ちよろしく季節によって住む館を移動するのかな・・・
と、馬車を降りてからずっと無様な間抜け面を豪快にさらしている俺を見かねたのか、馬車から一緒に降りてきたグレゴリ部隊長が領主の館について端的に教えてくれる。
領主の館は、全部で五つの建物で構成されているという。
それぞれ東西南北に向いた四つの建物には、領土を運営するための各省庁が置かれており、主に官僚が働いている。そして、この四つの建物に囲まれた屋敷(ここからではよく見えない)が領主様の住居兼仕事場となっているとのこと。
四方を囲まれながら暮らすとか、どこの監獄だよ!
と思ったが、どうやら先々代の領主様が、もともと各地区に配置されていた各省庁を行政の効率化を図るために領主の屋敷を中心に集約したのが発端であるらしい。
これだけ大きな街を有する領土だし、そうとうな仕事量なのだろう。
移動する時間も惜しいほどに・・・
あとはまあ、四方の建物を防御壁として有事の際に籠城しやすいのもこのつくりの利点だろうな。見るからに外部からの侵入も難しそうだし。
・・・さて、いい加減入ろうか。
正直さっきから門の前に立っている警備員がめちゃくちゃ怖い!
血走った眼で俺をガン見してくるのはなんでですか?
ここ領主の館だよな?マフィアの本拠地とかじゃないよな?
今すぐ回れ右したくなるんだが。
まあ、いざとなればこちらには禿げ頭強面のグレゴリ部隊長がついているし、きっと何とかしてくれるだろう。ホント頼みます!
グレゴリ部隊長に続いて門に歩いていくと
うん。やっぱり警備員に声をかけられた。
「ジェフリー・カーティス様!ようこそお越しくださいましたぁぁあああ!!あのカーティス騎士爵のご子息様にお会いできるとは、光栄の極み!何卒、握手して頂けないでしょうかぁぁあああ!!はぁはぁ」
血走った眼に荒い息、そんな状態で詰め寄らないでくれ!父さんの熱狂的なファンなのはわかったから!
はぁ・・・父さん、あなたは一体なにをしたんですか?
こんな大きな街で噂されるほどの有名人とか。騎士時代によっぽど素晴らしい武勲を立てたんだろうな・・・俺にはなにも教えてくれなかったけど。
父さんの昔馴染みだっていうグレイシス辺境伯に挨拶がてら聞いてみよう。
「私自身はまだまだ未熟な若輩者ですが、誰よりも尊敬する父の武勲に恥じぬよう、励みたいと思っています。ギュッ」
「精一杯応援させて頂きます!ジェフリー様もきっと素晴らしい騎士になれるでしょう!ギュッ」
なーんだ。この警備員さん、すごくいい人じゃないか!お仕事頑張ってください!
「・・・それでは、ジェフリー様。グレイシス辺境伯のもとへご案内させて頂きますので、こちらへ。」
「はい。よろしくお願いします。」
グレゴリ部隊長に促されるまま、俺は領主の館の敷地内へ足を踏み入れた。