161 ティスカー
王都の東にはちょっとおしゃれな通りがある。
貴族御用達のお店も点在しているので、そこそこ富裕層向けの通りではあるのだが、実は平民でも手が出ないというほどではない。
もう少し正確に言うなら、この辺には上から下まで様々な格のお店が立ち並んでいおり、安くても雰囲気の良いレストランや装飾品店というが結構あったりする。そのため、どの階級の人でもそれなりに楽しめるというわけだ。
かつては調子にのって、金欠などという醜態をさらすハメになった俺だが、今は違う。冒険者活動という命を張った小遣い稼ぎ(?)により得たお金がたんまりあるのだ。
今日の目標は “ ティナにプレゼントを贈る ” こと。
何を置いてもこれは達成しなければならない。感情の暴走を止めるべく、理性を暴走させるわたくし。ジェフリー・カーティスであります!
そんなわけで早速一軒目。
ここは雑貨屋さん。動物を模った可愛らしい置物や何に使うのかよく分からない形の花瓶、所狭しと並べられた売り物が賑やかで楽しい。
「わぁああ!」
「どうしたの?」
「見て見てこれ」
「うん?」
ティナがさし示したのは、綺麗な結晶の浮いた、液体の入った球体。
「これは?」
「“ サニースフィア ” っていうらしいわ。晴れの日にはこの結晶が浮き上がるんだけど、雨の日には沈んで透明になるんですって」
「へぇ面白いね。欲しいの?」
「ん~ちょうどいい置き場所がなさそうだから。別にいいわね」
「そ、そっか」
「次、行きましょ」
「う、うん」
ど、どうしよう。今更の今更なんだけど、プレゼントってどうやって選ぶの? 何を渡せばいいの? せっかく贈るなら喜んでもらいたいし、いらない物を貰ってもティナが困るよね。
女の子って何を貰ったら喜ぶのかなぁ・・・・・ああもう誰でもいいから、俺にこっそり教えて下さい!
――二軒目。
訪れたのは本屋さん。まるで時が止まってしまったかのような、静寂が満たす不思議な空間。心地の良い温かな光を反射する背表紙たちは、やわらかい笑みを浮かべている。
俺はその中に一つ。面白そうなタイトルの本を見つけた。
「ん~と、『最果ての英雄、最愛の息子を救う』?」
「えっ!? これ、T.スカー様の最新作じゃない!」
「T.スカーってたしか、あの有名な『英雄の証』の著者だったよね」
「そうよ! T.スカー先生、あれ以降ずっと新作を書かれていなかったから、本好きの噂では、もう書かないんじゃないかって言われていたの。それがこんな・・・・・ん~っ! 買ってくる!!」
「あっ! ティナ・・俺が・・プレゼント・・・」
俺が提案する前に商品を手にかけ出すティナ。あんなに興奮するなんて、よっぽど気に入った作家さんなんだな。
そう言えば『英雄の証』のサイン本が実家に飾ってあったな。やけに綺麗な装丁のやつ。母さんもわざわざ書き写しするほど好きだったっけ・・・。
って呆けている場合ではなかった! なんとしてもティナにプレゼントを渡して、今日のデートを楽しんでもらわないと!!
<一口メモ>
“ サニースフィア ” のモデルは “ テンポドロップ ” というユニーク雑貨です。かつて天候予測器として使用されておりました。




