158 メシウマ
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罠を仕掛けるのは、先ほど見つけた三又入り口。その足元。
「魔糸【アリアドネ】!」
俺は指先に集中させた魔力を細く頑丈な糸に作り変える。さらりと編んだ罠の構造は、至極単純な蜘蛛の巣状だ。あとは、獲物がかかったら思いきり指を引くだけの簡単なお仕事。
ただし制限時間は一時間。それ以上は魔力が底を尽き、維持できない。分かってはいるが、燃費が悪すぎる!
「とりあえず誘い込むしかないな・・・」
ただ待っているだけではタイムオーバーで俺がやられてしまう。ここは手っ取り早く罠にひっかけて捕まえたいところだ。
――考えに考え抜いた末。
俺は火を焚き、飯を炊くことにした。
美味い匂いで誘いだす。なんて単純な作戦ではなく。もちろん、自分の腹を満たすためでもない。これは高度な心理戦なのだ。
「くぅ~うまいっ!」
俺は香ばしく焼いたお肉を頬張りつつ、声高に叫ぶ。まるで本心から言っているように。本当は作戦のために仕方なく食べているだけだが、それを悟られてはいけな・・・あ、これやっぱり美味い。
思わず作戦を忘れそうになったころ。
「っ!?」
洞窟の奥から大量のナイフが飛んできた。
「おいこらテメェ! なに戦闘中に美味そうなメシ食ってやがんだ!!」
狙い通りにブチ切れ気味のダスター先輩が現れたのだ。俺はナイフを弾きつつ、腰から引き抜いた短剣を投げ返す。
「ふっ!」
が、ダスターは腕の一振りでそれらを叩き落とすのだった。残念ながら、天井から降りてくる気はないらしい。
マズいな。体が気だるくなってきた。もう時間がない。一刻も早く天井から叩き落として・・・いや、もういっそ・・・。
「はぁあああ!」
俺は先ほど弾き落としたナイフを拾い上げ、八本同時に投げ返す。
「ふぬっ!」
やはりダスターには弾かれてしまうが、それでいい。
「落ちろぉおお!」
狙いはナイフにひっそりと絡ませた糸。こいつを操り、ヤツを落とす作戦だからだ。自慢の手足でも、さすがに人力には敵うまい。
「うおっ!」
落下した獲物は空中で体勢を整えようとするが、もう遅い。即座に網で捕らえ、身動きを封じてやる。あとはこのまま倒すだけだ。
「はぁはぁ・・・俺の勝ちですね」
勝利宣言をした俺に、しかし鼻を鳴らすダスター先輩。
「ハッ! なめるな」
「うっ!?」
突然目の前が真っ白になった。ダスター先輩の持つ剣が眩しく光り出したのだ。
くっ! 目をつぶされた!
「ちっ! 逃げられた」
目を庇った拍子に拘束が解けてしまったようだ。俺はチカチカと見えなくなった目を閉じ、相手の気配だけに集中する。
微かな呼吸に足の音、剣を振る風切り音。そこから予測し、攻撃を避けていく。
「へぇ。まだ動けんのか。お前なかなかやるな。だが・・・これは気づけたか?」
声が聞こえたのはすぐ目の前だった。
「っ!?」
咄嗟に後ろへ回避する俺。
「あれっ?」
おかしい。ヤツの声がだんだんと遠ざかっていく。いや、俺が落ちているのだ。俺は間違いなく、背中から落下している。
「まさか落とし穴かッ!?」
重力に引かれながら、それに抗う一手を。身体が反射的に選択する。
「【空走】」
「なにっ!?」
驚いた声。敵はそこにいる!
俺は残り少ない魔力を手のひらに集中させ、勢いのまま突っ込んだ。
「はぁあああ! 喰らえ。魔剣【カラドボルグ】!!」
返ってきた硬い感触に、俺は勝利を確信したのだった。




