157 特異種
明かりもなしに真っ暗な洞窟を進むことができる特殊な目。天井を高速で這うことのできる不可思議な手足。そんなことができるダスターは、どう考えても人間族じゃない。明らかに獣人族だ。
それも、おそらくこの辺じゃあまり見かけない蜥蜴型の特異種と思われる。ちらりと見えた腕には鈍い光沢のようなものが見てとれた。きっとあれが、蜥蜴型特有の “ 鱗肌 ” というやつで間違いないだろう。
天井に側壁、あらゆるところを移動できるのは、手足の指先がピッタリと吸着する構造になっているからと聞く。
「これまた、さらに厄介な相手に当たったものだな」
“ 鱗肌 ” を持つ獣人種は、身体強化を行う際、自身の鱗にも魔力を通すことができる。その結果、彼らの身体は鋼のように硬くなり、ある程度の攻撃であれば黙っていても弾くことができてしまう。
つまり彼らは、身体強化の魔法を使ってさえいれば、人間族のように重い鎧を着る必要がない。その身一つだけでも十分な強さを発揮することができるのだ。
ただでさえ並外れたポテンシャルを持った種族なのに、この学校で鍛え上げた肉体と技術をフルに活用してくる上級生。生半可な攻撃では通らないだろう。
そして問題はもう一つ。
「弾いたはずの剣が見えなかったんだよね・・・」
あの感触なら、斬撃が速すぎるということはないだろうし、ましてや実体がない剣なんかあり得ない。だとすると、何らかの方法で剣身を見えなくしているだけだという予想はできる。
たぶん、あれが彼の属性付与による効果なのだ。
「でも長さが分からないんだよな~」
間合いが一切読めない。これは致命的すぎる。まあ、幸い狭い洞窟の中だから、ある程度絞った長さではあるのだろうけれど。それでも見極めが難しいのは確実だ。
技量で勝っていたとしても、下手に踏み込んで返り討ちにあうのは避けたい。
つらつらと浮かんできた考えをまとめつつ、俺は敵を探して洞窟の中をグルグルと歩き回った。
「ふむ。この洞窟。思ったよりも、広さはあまりないみたいだ。予想通り、ループになっていて行き止まりもなさそうだし」
そのおかげで出来上がってしまった脳内地図を眺めていると、やがて一つの案を思いつく。
「それならせっかくだし、アレを試してみようか」
適当に、良さげなポイントを見つけた俺。
「うん。あの辺に仕掛けよう」
目には目を歯には歯をって言うしね。こうなったら俺も、ちょっとした罠を仕掛けさせてもらおうじゃないか。
覚悟しろよダスター先輩。ボロ雑巾のように・・・は違うか。とにかく、あんたのその硬い鱗ごと俺が打ち倒してやる!
闘争心に燃える俺は静かに口端を持ち上げた。




