156 天を這う者
ゆっくり歩くことしばし。
複数の分岐点を全て右に進むも、いまだに接敵はなし。
ただ、その道中、俺は罠らしきものをいくつか見つけていた。
「またこれか。一体いくつあるんだ?」
道の足元にピンと張られた糸。太さは、かなり細いものと太めのものがランダムに設置されている。どうやら太いほうは、足を引っ掛ける目的(いたずら?)で仕掛けられているらしく、両端の岩にかなり頑丈に縛り付けられていた。
細いほうは、おそらく敵感知か何かだろう。いや、もしかしたら壁崩しの罠とかそういう類かもしれない。まあ試すつもりはないが・・・というか、これが仮にも騎士候補のやることか?
ああ。でも、冒険者仲間にこういうのが得意な人がいれば、教えてもらう場合もあるかもしれないな。ダスター先輩はそっち方面でも活動している人なのかも。だとすると『洞窟』フィールドは、さらに厄介な場所になるな。
俺はそんなことを考えながら、張り巡らされている罠を避けて慎重に進む。
「っ!?」
突然背後から聞こえた物音に振り向く俺。
「なんだ?」
壁に背をつけて辺りを探るも、人の影は見当たらない。
前方がどうなっているのかは分からないが、ここは先ほど通った分岐から結構距離があり、一本道。奇襲には不向きはポイントなので、おそらくここで仕掛けてくるヤツはいないだろう。
「やっぱり俺の気のせいか?」
ちょっと神経質になりすぎているのかもしれない。
だいたい、これだけ大量の罠が仕掛けてあるんだ。そう簡単に移動はできないだろうし、なによりこの暗さ。確実にあっちも明かりが必要なはずだ。それが一切見られないのだから、きっと気のせいだろう。
俺は一つ溜息を吐いて再び歩き出す。がしかし、前を向いた途端、頭上から微かな風切り音が聞こえてきた。
「っ!?」
俺は咄嗟に剣を構え、それを弾く。
「ちっ!」
舌打ちのような音が聞こえてきた方向に目を向けるも、誰もいない。
「上か?!」
見上げた先には黒い物体。
「くそっ! バレたか」
黒い衣服で身を隠した人物(おそらくダスター先輩)はそれだけ言うと、天井を這って洞窟の奥へと逃げていった。
「あっ! 逃がすか!」
俺はそれを追いかけるために走り出すが、困ったことに速度が出せない。そう。足元の罠が邪魔すぎるのだ。
ああもう鬱陶しい!
だんだんと避けるのが面倒くさくなり、勢いに任せて罠を強引に破壊してみる。
「ん? 何も起きない。まさかこれ、足止めが目的だったのか?」
馬鹿馬鹿しくなった俺は、片っ端から罠を切り刻みつつ走り続けた。
その先にあったのは、新たな三又の分岐点。天井にも足跡らしきものは見当たらず、ダスターがどこへ行ったのかが分からない。
「はぁ逃げられちゃったか・・・」




