155 その暗がりが・・・
扉の先に待っていた真っ暗闇。冷静な俺が戻ってくる。
「・・・・うん。あれはなかった。あとで謝ろう」
さて、それはそれとして。
これは幸運と言うべきか、不運と言うべきか。
ズボンを穿いていない、誰がどう見ても変態な俺にとって、この暗闇は非常に都合がいい。見つかる前にサクッと叩ければ最高の結果である。
さすがにこんな下品な姿(下半身丸出し、ただしパンツは穿いている)を堂々と見せられるほど、ふりきってはいないからね。
バレたら色んなところから説教、どころか物理的な躾までされそうだし。考えただけで恐ろしすぎる。一体何されるんだ俺!
ただ、この状況。そんな幸運ばかりとも言っていられないんだよな。これまでの試合で、こんな真っ暗なフィールドを使用した記憶はなく、クラスメイトたちから聞いた情報にも全くない。つまり、こちらは完全に初見なのだ。
対して相手ダスター先輩は四回生。残念ながら知り合い(50位より上)ではないが、油断はできない相手である。
上級生たちがみな、すでにフィールドの構造を把握しているのは、もはや確実。特に、高学年になればなるほど、フィールドの特性を生かした戦略を立ててくるのが分かっている。
そこに、これほどの暗闇。罠や奇襲にはもってこいのフィールドだろう。もしかしたらそういったところも試されているのかもしれない。
俺は警戒しつつ、その場にしゃがみこみ、地面を触ってみる。
「硬くてツルツルしている。若干の湿り気もあるな」
続いて軽く舌をならすと、すぐに反響音が返ってきた。思ったよりも壁が近いらしい。
辺り一帯に漂う妙な圧迫感と毛が逆立ちそうな陰気な気配。
「なるほど。ここは『洞窟』か?」
本当は的にされる危険性が跳ね上がるから、あまり良くないんだけど。さすがに、この状態で動くのは難しすぎる。
「【火球】」
俺は仕方なく手のひらに小さな火球をつくると、その明かりを頼りに周囲を観察してみた。
「ふむふむ」
どうやら穴の大きさは直径で二メートル程度。昔サラマンダーが飛び出してきた横穴と比べると、かなり小さいみたいだ。
これじゃあ技量の低い生徒はまともに剣も振れないし、ジャンプなんてもってのほか。下手したら戦いにすらならなそうである。
幸い足場は平らに近いから、走ることは出来そうなのが唯一の救い。逃げ回るだけなら不可能じゃなさそうって感じ。
「問題は広さと構造だな・・・」
わざわざこんな難易度の高いフィールドを試合で使うんだ。洞窟の中が一本道なわけはないだろう。おそらく分岐やループがあちらこちらにあるはずだ。
知らない間に背後をとられたり、側壁の影から奇襲されるのが一番怖いな。
俺は気を引き締めながら、壁に片手をつき慎重に歩き出した。




