154 ボクはキメ顔でそう言った
次の試合は校内順位299位ダスト先輩。いよいよ200位台ということで気合い十分。俺は試合フィールドへの入り口がある、第一訓練場のB-4の部屋を探していた。
「試合会場への入り口は・・・この辺だよなぁあ!?」
しかし、いきなり目の前の部屋から出てきた思わぬ人物に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あ~疲れた~帰ってお風呂に入りた・・・へっ?」
俺の声が聞こえたのだろう、向こうもこちらに気が付いたようだ。
剣を片手に気の抜けた感じの声をもらした彼女は、俺と自分の姿を見比べながら口をあんぐりと開けて固まった。
――どれくらい経ったろうか。
俺は永遠にも感じる時の中で、突如現れた黒髪の少女を脳髄の奥深くに焼き付ける。二度と忘れることのないようにと、本気で願いながら・・・。
嗚呼。いつものように艶々とした深い黒に、キリリとした強気な目。ほんのりと汗をかいた首元と普段見ることのないスラリとした生足は、否応なく男の本能を刺激してくるようだ。
そして極めつけは、上着の裾のせいでギリギリ見えないアレ。
くっ! なんてことだ! この角度からでは見えないではないかッ!!
惜しい。あまりにも無念すぎる。俺の身長がもっと小さければ、こんなことにはならなかったのに・・・でも、ここでしゃがんだら確実にアウトだよね?
だってそんなことしたら、スケベな下心を恥ずかしげもなく露出する変態みたいじゃないか!
さすがにそれはできん。落ち着くんだジェフリー。ここは何も見なかったかのように素通りするのが一番だ。そう。俺は何も見なかった。何も見なかったんだ。
俺は紳士。俺は紳士。俺は紳士。
深呼吸しつつ、脳内で繰り返すも、なぜか目が離せない。どうにか身体をねじってみても、顔だけがまるで固定されているかのように動いてくれないのだ。
マズい。ティナが剣を片手にフルフル震えだした。
何か、何かないか! この状況を打破する方法は!!
グルグルと興奮が渦を巻き、煙が吹き上がりそうな頭で出した答えは・・・。
「これでも穿いて待っていろ」
涙目で赤面するティナに、俺は脱ぎたてホヤホヤのズボンを突きつけながら、キメ顔で言った。芝居がかった声で最高にカッコつけたつもりだった。
フッ決まったな。あとはこれを穿いてくれれば万事解決。
ティナはさらなる衝撃によって真顔に戻ると、瞬きを数度繰り返す。
「・・・・・へ」
「へ?」
そうして振りかぶった拳は、鋼のように硬く握りしめられていた。
「変態ぃいいい!!」
ですよねー!
思いきり殴りつけられた俺は宙を舞いながら、霞んだ視界の中でB-4と書かれた表札を見つける。
よし。とりあえず逃げよう。もうそれしかない!
着地と同時に飛んできたティナの短剣をすんでのところで躱し、扉を素早く開く。
「ふぅ」
飛び込んだ先は・・・。
「暗っ!?」
闇の中だった。




