閑話 マルティナの戦い③
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ベルトを外し、ホックを緩め、真上に飛び上がる。
足がスルリと抜けた瞬間。大量の砂が、私のズボンを押し潰した。
「ちょっとスースーするわね」
幸い上着の裾が長めなので、ヒラッヒラの下着はギリギリ隠せているはず。相手が女なのだから、見られても平気・・・平気なんだからっ!
蓋をしても漏れ出てこようとする乙女の羞恥心に全力で喝を入れ、無事に着地。私はそのままブリトニーのいる方向とは逆方向に走り出す。
「振動の起点はそこだけでしょ?」
女を捨てたような私の行動に、驚き呆けたブリトニー。
反応はないけれど大丈夫。砂の流れにあきらかに偏りがあるもの。こっちから上れば抜け出せるはず。
「よしっ!」
予想通り流れの緩いところを見つけ、砂の坂を駆け上がった私。
「覚悟なさい。私、剣術なら絶対に負けないから」
剣を突きつけた先。ブリトニーの第一声は・・・。
「は、は、破廉恥っ!!」
まるで裸の痴女を見るような目で、顔を真っ赤にして私を見てくるのだった。
「あ、あんたのせいでしょ!」
「戦いの最中に衣服を脱ぐなど言語道断です。ましてや自分で・・・淑女としての品性が足りませんよあなた!」
「だってあのままじゃ・・・」
「だっても何もありません。もっと自分の身体を大事になさい!」
本気の説教を吐き散らかすブリトニー先輩に、私は若干の申し訳なさを感じつつ、剣を振りかぶる。
「か、勝てばいいのよ。勝てば!」
「くっ! あなた、女を捨ててまで。それほどまでにこの国のことを・・・」
彼女は、なぜか悲しげな顔を向けてきた。一体なにを勘違いしているのかしら。
「全てを捨てるつもりなんてないわよ。ただ、全力を尽くさなきゃ、中途半端な覚悟じゃ、あいつには到底追いつけないの。なりふり構っていられないのよ!」
とは言っても、さすがにこの姿は見せられないけどね。もし見られたりしたら悶え死にしそう。ってああもう! ダメ! 考えるな私!
「はぁあああ!!」
私は邪念(?)を振り払うように力いっぱい剣を振り下ろす。しかし、やはりブリトニーの剣は少々厄介だった。
「ちっ! はぁああ!!」
「ふぅっ!」
絶えず振動している剣が、斬撃を容易に弾いてしまうのだ。何度剣を交わしてもつばぜり合いにもならない。ましてや相手の剣を滑らせてカウンターを打ち込むなんて無理。
ん? いえ、ちょっと待って。よく考えたら、振動しているものに勢いよくぶつかったら、そのぶん反動が大きくなるんだから弾かれるのは当たり前よね。
なら、軽く添えるだけだったら?
それほど強い衝撃は返ってこないんじゃない?
つまり、無理に押し込まず、受け流しながら上手く剣を滑らせることができればいい?
「ちょっと難しいけど、やるしかないわね・・・」
力のかけ方、角度、タイミング。一つズレれば失敗してしまう難しい技。でも、きっと彼だったら涼しい顔でやっちゃうんだろうな。
「やぁああ!」
ブリトニーが横薙ぎを打ち込んできた瞬間。
ここね!
「蒼天流【柳風】!」
私は迫る剣の軌道に逆らわず、体を反らしながら、自分の剣を滑らせる。踏み込んだ先には標的の胴。
「っ!?」
全力で振りぬいた背後からは、短い悲鳴が上がった。
「ふぅ。私の勝ちね」
やがて誰もいなくなったフィールドには、砂に埋もれたベルトが一本。悲しげな鈍い光を放ちながら、主に拾われるのを黙々と待っていた。
作中の “ 柳風 ” のルビは語呂重視です。
本来は “ なぎ ” とは読まないのでご注意ください。
※技名は「柳に風」から




