閑話 マルティナの戦い②
必死に足を動かすも、砂が次から次へと押し寄せてきて、どんどん埋まっていく。このまま埋まり続けたら私は負ける!
「マズいわ! これはいったい・・・」
振り返ってみれば、窪地の上から私を見下ろす女が一人。
凛々しい顔立ちの、その上級生の名は、ブリトニー・ブリックス。亜麻色の長髪に涼しげな目元(私の吊り目とは大違い)が特徴的な、非の打ちどころのない美人である。
彼女は剣を砂に突き挿したまま、片膝立ちでこちらを見つめていた。
「あんたが仕掛け人ってわけね。油断したわ」
私は剣をしまい、諦めたふりをして聞いてみる。
「はぁ~もう終わりね。ところでこれ、どうやっているのかしら? よかったら後学のために教えて頂けませんか? ブリトニー先輩」
「ウフフッ! そうね。どうしましょうか」
「ぜひお願いします!」
「それじゃあ・・・・・試合が終わったあとに、教えて差し上げますね。一緒にお茶でもしながら、ゆっくり語り合いましょう」
しかし笑顔であっさりと受け流すブリトニー。
ちぇやっぱりダメか・・・・・あの女、ブリブリしやがって。
でも収穫はゼロではない。彼女は会話中もずっと剣を握ったまま姿勢を崩さなかったのだ。もしかしたら、というか高確率であの剣に何か仕掛けがあるのだろう。確かめてみる価値はありそうね。
私は先ほど使った短剣をもう一度手に取り、
「そうもったいぶらずに。ここで教えてくださいません・・・か!」
ブリトニー目掛けて勢いよく投げつけた。
「きゃっ!?」
これには向こうも驚いたのだろう。尻もちをついた拍子に剣から一瞬手を離した。
「うん?」
私は足元を見て確信する。彼女が剣から手を離した瞬間に砂の流れが止まったということは、あれは、彼女の技によって引き起こされている現象。もっと言うなら、剣を媒介にして発動させる属性魔法、すなわち【属性付与】の効果としか思えない。
風? いいえ、それなら砂を巻き上げて砂嵐になってしまうもの。こんな地味な現象は起こせないわ。
土? う~ん。違うわね。確かあれは、剣を土で覆って変形させる使い方が主流だって、ジェフリーが言っていたもの。使い手が、まるで大木を振りまわすゴリラだったって話。
あと考えられるのは
「振動?」
私の独り言が聞こえたらしく、ブリトニーはクスクスと笑いながら、それを認める。
「あら。もう気づいてしまったのですね。まあ、時すでに遅し、ですけれど」
どうやら振動により砂を震わせて、この窪地に流し込んでいるようだ。フィールドの特性と自身の属性を巧みに応用した戦術である。やっぱり上級生は手強いみたい。それでも・・・。
「私はこんなところで負けていられないのよ」
いよいよ腰まで埋まりかけ、本当に身動きがとれなくなってきたころ。私は意を決して、ズボンのベルトに手をかけた。なりふり構っていられない。相手が女なら恥ずかしくないもの!
「何がなんでもここを抜け出して勝ってみせるわ!」




