閑話 マルティナの戦い①
マルティナ視点の閑話が少しだけ。
お付き合い頂けると幸いです。
808位からようやく667位。二週間経ってもなかなか順位が上がらない。
ジェフリーみたいに全戦全勝、毎回勝てるほどの実力があればよかったのかもしれないけれど。やっぱり二回生の上位陣は、私よりも強い人たちばかりだった。
でもここまで戦ってきて分かったことがある。
毎年フィールドの中身はほとんど変えていないだろうということだ。
実際に、三度も戦った『沼地』フィールドでは同じ配置、同じ形の小さな池がいくつかあった。ジェフリーたちにも聞いてみたけど、これはおそらく間違いない。
だとすると上級生はみな、ある程度正確な地図を持っていることになる。はじめから大きな情報格差がある状態で、なおかつ技術的な力量差もあるこの状況は、正直不利としか言いようがない。
サチウス先生の言っていた通り、この状況下で順位を上げるなんてことは非常に困難と言わざるを得ないのだ。
そんな中でも当たり前のように勝ち進んでいくジェフリーはやっぱり凄い。あの強さは、もはや異常よね。
多くの女子たちから言い寄られるのも時間の問題。いや、私が知らないだけで、すでに裏ではたくさんのアプローチを受けているのかもしれない。クラスの男子(?)からも言い寄られるくらいだし・・・。
ああダメ! くだらない思考は捨てないと!
今は強くなることだけを考えるのよマルティナ。私は強くなってジェフリーの隣に立つの。そして立派な女騎士になって、いつか夢を叶えるんだから!
不埒な考えを懸命に振り払い、私は今日の試合会場に入る。
「ここは・・・『砂漠』かしら?」
目の前に広がったのは、青空と砂の山々。まるでカーテンを横に寝かせたかのようなやわらかな波は、どこまでも続いているように思われた。
「足場が悪いわね。吹きつける砂も厄介そうだし」
足元の感触を確かめつつ周りを眺め回すが、結果は予想通り。誰もいない。
「まずは索敵からはじめないと」
正直この順位戦、対戦相手を探すだけでも一苦労で、本当に辛い。何かいい方法がないものかと考えてはいるけれど、結局いまだに思いつかないまま。
実戦じゃそんなことは言っていられないっていうのは分かっているのよ? でも、戦う前からこうも体力を削られるのはどうなのかしらって。そう思うのも無理ないでしょ?
そんな自問自答をしているうちに一時間。
何の手掛かりもつかめぬまま『砂漠』フィールドを彷徨い歩いた私は、ようやく敵の足跡らしきものを見つけた。
「これ、まだ新しいわね」
その足跡を追ってみると、やがてアリジゴクのような不自然な窪地が見えてくる。足跡はその手前でぱったりと途切れており、周りに人影は見当たらない。
「まさか自滅? いえ、罠かしら」
私は剣を抜き、警戒しつつ近づいてみることにした。
「特に何もなさそうね・・・ん? あれは」
すると窪地の中心に、何やらキラリと光る物体が見える。さすがに怪しいと思い、腰から引き抜いた短剣を投擲してみると・・・。
「何も起こらないわね」
問題ないと判断し、光る物体に近づいていく私。拾い上げたのは高価そうな宝石のついたイヤリングだった。
どうしようかしらと思いつつ、それをズボンのポケットに入れて、さっさと窪地を離れようとしたそのとき。
「っ!?」
私は重大なミスに気が付く。
「なにこれ! 抜け出せない!!」
注意力が散漫になっていたせいか、砂の感触を一切感じないまま、知らぬ間に足が埋まっていたのだ。




