151 流星の貴公子(自称)
お読み頂きありがとうござます!
森の中でまずやるべきことは索敵。ではなく、身を隠すこと。敵がどこにいるか分からないのだ。下手に動くのはリスクが高い。
それに、相手が二回生ということは、すでにこのフィールドを何度か経験しているかもしれない。
毎回中身を変えているならいいが、そうでなかった場合、あちらはある程度フィールド内の地形も把握している可能性が高い。なら当然、自分に有利な場所、相手に不利な場所、このフィールドでの戦い方も知っていることになる。
この順位戦が完全に実戦形式というのなら、この “ 情報の格差による優位性 ” というものもしっかり織り込まれているとみるべきだ。
であるならば、一番警戒すべきは罠の類。次いで、隠密追跡による奇襲といったところか。
俺は素早く方針をかためると、その場にいくつかの足跡をわざと残し、近くの巨木の根元へと身を潜めることにした。
――息を殺して待つこと一時間。
地を蹴る音が聞こえてきた。
こっそりと見てみると、俺が触った苔を入念に調べる細身の男が一人。
「ふむふむ。これは・・・!?」
どうやら先ほどつけた足跡を見つけたようだ。
「フッフハハハッ! そうかわかったぞ。私の相手はあっちか。どうやら今年の一回生主席は大した相手ではないらしい。大方なにも考えずフィールド内を探し回っている阿呆なのだろう。この流星の貴公子レオナルド・チェイスの敵ではないな!」
セミロング程度に切り揃えたサラサラの髪に、ナルシスト感あふれる独り芝居。レオナルド・チェイスという男は、実に気持ちの悪い先輩らしい。
いやホント、できれば相手にしたくないな・・・。
彼は結局、息を潜めた俺に一切気づかずあさっての方向に駆けだした。
「どうやら二回生上位も大した相手ではないらしい」
俺はレオナルドの後方、約百メートルの位置を維持して逆追跡を行う。まあ、目的は『樹海』フィールドの散策を兼ねた奇襲タイミングの調整なんだけれど。
そうして、フィールド内を走り回った俺は、だんだんとこのフィールドの異様さを思い知る。
一つは草花。所々に生えている巨大なそれらは明らかに食虫、いや食人植物ともいえる化け物だった。うっかり近づこうものなら、捕まって食われるか、強力な粘液で溶かされてしまうだろう。
一つは木の根。どうやら生い茂る木にまじって変なのがいるらしい。ときおり意思を持ったように動き出し、からめとろうとしてくるあれらは脅威以外のなにものでもない。
トラップだらけのこのフィールド。確かに、下手したら自滅する可能性がある。気をつけないと、これを逆手にとられて、戦わずして負ける。なんてこともあり得ない話じゃないね・・・。
俺は気を引き締め直してレオナルドを追い続ける。
そうしてさらに一時間弱。
ようやく、奇襲しやすそうなポイントを見つけた俺は、一気に急加速。
「【空走】!」
回り込むかたちでレオナルドの右斜め前方にある巨木の影へと潜む。
「さん、にい、いち・・・」
――タンッ!
レオナルドが木の根を飛び越えようと大きく跳躍した瞬間。
「ここだ」
俺はこれを撃ち落とす勢いで、槍を全力投擲した。
「魔槍【グングニル】!」




