150 初戦開始
指定された時刻は、午前六時ちょうど。
指定された場所は、第一訓練場の部屋F-1。
対戦相手は、レオナルド・チェイス(632位)という名の二回生。
俺は時間通りに第一訓練場へと向かい、指定された部屋を探す。
「F-1、F-1っと・・・ここか」
入学試験のときと同様、ズラリと並んだ扉の中からF-1と書かれた表札を見つけ、少々重い鉄の扉を開いた。
「えっ!?」
するとどうだろう。部屋の中は鬱蒼とした森。力強く生い茂った高く太い木々が、頭上から注ぐはずの光を遮り、辺りに色濃い影を落としている。
薄暗い視界には、荒々しく隆起した木の根と湿り気を帯びた緑色が、ジメジメと不気味に笑っているようだった。
俺は一瞬呆気にとられるも、すぐさま我を取り戻し、それらが実体なのかを確かめる。
「う~ん。この感触は・・・」
本物にしか思えない。いやまあ実際には、この異空間内に設置された障害物的なものなんだろうけれどね・・・これはさすがに精巧すぎる。ベチャってしたし。ベチャって!
あまりの現実感に驚いていると、どこからか声が聞こえてきた。
「対戦者両名がそろいましたので、これより順位戦を開始します。カードは一回生ジェフリー・カーティス(801位)対二回生レオナルド・チェイス(632位)。対戦フィールドは『樹海』となります」
順位から察するに、どうやら最初の相手は二回生の中でも上位の生徒と思われる。まあ、学年と順位がある程度比例していれば、という前提の話だけれども。たぶん一部の例外を除いて、ほぼそういう認識で問題ないだろう。
「今回は初参加の一回生がいますので、はじめに軽く説明をしておきましょう」
天の声(おそらく立会人をつとめる先生)はそう言うと、平坦な話し方のまま続けた。
「まずこの『樹海』フィールドを含めて、対戦フィールドは九つ存在します。いずれのフィールドでも、二人のスタート位置はある程度離れた場所で、ランダムとなります。監視役であるこちらでは把握していますが、対戦者同士には位置が分からない仕組みになっていますので、よくよく考えて行動することをお勧めします」
なるほど。試合開始時までどういった状況で戦うのかも分からないうえ、フィールドの広さも、敵の位置も何も分からないときたか・・・もろに実戦そのものといった感じだな。
これからの方針を考えているところに、天の声から追加の注意がなされる。
「最後の注意点ですが、対戦相手以外の攻撃や事故等による死亡であっても、その勝負は決着となります。くれぐれもフィールド内での自滅には気を付けてください」
えっ? 対戦相手以外ってなに?
最後に言われた注意点がなぜか妙に引っ掛かる。しかし残念ながら、混乱の渦中にある俺を天の声は待ってくれない。
「以上、これより試合を開始します」
こうして淡々と開始の言葉を告げるのだった。




