148 待たせたな!ひよっこ共
――あれから早くも一か月。
いまだにロザリーの二重人格問題は解決していない。
ただ、弟ハイネとぶつかった衝撃(?)で、ロザリー自身にはちょっとした変化があったようだ。普段の会話もしやすくなったし、笑顔もだいぶ増えた。
このまま続けていけば、いずれ改善されるだろうなと、何となくそんな気がしてきた俺である。
さて、そんなこんなであっという間。気が付けば、騎士学校に入学して三か月ほど。教壇の上に立つサチウス先生も見慣れたものだ。
と言いたいところなのだが、なぜか今日のサチウス先生は少しだけ様子が違う。妙に鼻息が荒く、顔の血色が良いように見える。
(幸が薄いなんてとんでもない、実に希望に満ち溢れたお顔をしていらっしゃる)
きっと声には出さずとも、クラスの全員が内心でこう思っているに違いない。
気持ちが悪いほどに生き生きとしたサチウス先生の口から飛び出した言葉は、なるほど俺たち生徒も興奮を禁じ得ないものだった。
「よく聞けお前たち。いよいよ明日から “ 校内順位戦 ” が開始となる!」
そう。この時期は、年に一度の順位戦が開催される時期。事前に知ってはいたけれど、実際に始まると思うとワクワクしてくるなぁ!
俺と同じように、興奮した生徒たちがザワザワと盛り上がりはじめる。
「いよいよかぁ~」
「いい力試しになりそう」
「さっさと上がってやるぜ!」
そんなクラスの様子をひとしきり眺めたサチウス先生。いつの間にか先生の表情は、いつも通りの真剣なものへと戻っていた。
「盛り上がっているところ悪いが、はっきりと言っておく。お前たちはAクラスといっても一回生。まだ入学したばかりのひよっこ共だ。上級生とまともに戦っても勝てるような者はごく一部。当然、たいして順位を伸ばすことはできないだろう」
この言葉に反応したのは一人の男子生徒。ウニのようなツンツン頭をした彼は、勢いよく立ち上がって教室内に声を響かせる。
「そんなことはないと思います! 二回生のCクラスやDクラス程度の人が相手なら敵じゃない。俺たちAクラスは、入学時点でそれだけの実力があるはずです。そうだろ? みんな!」
血気盛んな他の生徒たちも、これに便乗して声を上げだした。
「そうだそうだ!」
「所詮下位クラスの雑魚。俺たちなら勝てるって!」
完全に上級生をナメくさった態度の彼らには、正直呆れるしかないが、実際どうなのだろう。順位でいうと、おそらく大半が700~800位付近(俺たちを除いてほぼ最下層に位置する)と思われる。そんな人たちの実力は如何ほどなのか。
俺の疑問を察したわけではないだろうが、サチウス先生は淡々と話し出した。
「当たり前の話だが、二回生以上の生徒は全て、属性付与を習得済みだ。つまりお前らと彼らには、すでに明確な “ 差 ” が生まれている。この学校で一年間鍛え上げた肉体と技能は、お前たちが思っているほど安いものではない」
ここで一つ溜息を吐いた先生。そのまま、立ち上がった男子生徒をゆっくりと睨みつけて、強い口調で続ける。
「ナメるな。今のお前たちなど雑兵ですらない・・・だからこそ、上級生たちとの摸擬戦闘では、たくさんの学びがあるだろう。胸を借りるつもりでいい。精一杯取り組むように」
ずいぶんと厳しい言い方だが、これは叱咤激励と捉えるべきだろうな・・・。
「「「はい!」」」




