144 うらやまけしからん!
8/29改稿
人名変更(ヨルン⇒ハイネ)です。
※名前の重複があったため
学校の合間にお店のお手伝いを続けること一か月。ロザリーもだいぶ成長し、ぎこちないながらも笑顔での接客ができるようになってきたころである。
そんな昼下がりの薬屋に入ってきたのは、なにやら見覚えのある男とその取り巻きと思しき男が二人。
「さすがハイネ様。あれほどの魔物を倒してしまわれるとは!」
「これほどの実力なら、すぐにでもAクラスへ上がれそうですねっ!」
「まあまあそう焦るな。まずは今年の順位戦であの忌々しい女を叩き潰してやる。そうすればお父様も、俺が次期当主の座にふさわしいとお認めになられるはずだ。ククク」
この会話からも分かる通り、三人は騎士学校の生徒。しかも同じ一回生である。
と言っても、ハイネと呼ばれた男以外は顔も名前も知らない奴らなので、実のところ一回生かどうかは分からない。ただ、あいつだけは確実に一回生であることが分かっているから、その取り巻きもおそらく同年代だろう。そう推測しただけだ。
なぜ俺がそんなことを知っているのかと言われれば、単純。このハイネという男こそが、騎士学校の入学試験会場でロザリーを殴っていた腹違いの弟だからだ。
尊大な態度で応じるハイネは無駄に煌びやかな鎧を装備しており、両脇でご機嫌取りよろしく手をもんでいる二人は正反対。弱々しくみすぼらしい見た目は、とても頼りなさそうな印象を受ける。
三人はどうやら、休日の時間を利用して冒険者活動に勤しんでいるらしい。この薬屋にやってきたのは、足りなくなった備品を買いそろえるためのようだ。
「それよりお前たち。この店で、目が覚めるほど愛らしい女が働いているというのは本当なのか?」
「ええ、ええ。それはもう見目の良い看板娘が二人もいるって噂ですよ」
「なんでも冒険者の男どもがこぞって通い詰めているとか。話を聞いた冒険者の証言によると、高ランク冒険者じゃないと店に近づくことすら許されないらしいですね」
「ククク。なら問題ないな。俺たちの冒険者ランクはCランク。もはや高ランク冒険者と言っても過言ではないのだから。それに、いざとなればコレがある」
「ええ、ええ。こんなちんけな店に、ハイネ様に逆らえる者などいるはずがありません」
と思いきや、女狙いで入店してきたらしい。
あの言動から察するに、ハイネは家紋の入った装飾品でも持っているのだろう。親の権力を使って女を口説こうなんて、なんてうらやま・・・けしからん奴らだ!
そして残念ながら、お前らの思惑通りにはいかないんだよ。バカめ!
店に入ってきた三人は、奥で接客する二人(+俺)を見るやいなや固まった。そうして、先ほどまでの緩んだ笑みを完全に消し去り、言葉をなくす。
「「「・・・」」」
「「いらっしゃ・・・」」
対する女子二人も、挨拶の途中で男たちの存在に気が付き一瞬固まった。
「っ!?」
が、ここでいち早く動いたのはティナだった。彼女は金縛りから早々に抜け出すと、いまだ呆けている男三人に強烈な拳を叩きこむ。
「ぐぎっ!」
「んぐっ!?」
「ひぎゃ」
あっさりと昏倒した男どもの襟首を掴んで、店の外にポイッと放り出すティナ。手のひらを軽く払うとこちらへ振り向き、なぜか少し照れた様子で言ってきた。
「・・・やっちゃった」




