142 不良娘
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ロザリーはおとなし過ぎる。
しかしそのせいで、言いたいこともやりたいことも我慢してしまう傾向にあるのだ。そしてそれが、心の内にどんどん溜まって澱んでいく。
自分ではうまく吐き出せないから、それを別の人(別の人格)に吐き出させている現状。これを改善するには、きっと彼女自身が変わらなければいけない。
というわけで
「いい? ロザリー。お客さんが来たら、まずは挨拶よ。腰を丁寧に曲げて大きな声で。いらっしゃいませー!!」
「・・・い、いらっしゃ」
「声が小さい! もっとこうお腹から声を出して。いらっしゃいませー!!」
「い、いらっしゃいませ~」
俺たちはティナの家。すなわち、ティナの祖父がやっている薬屋へ来ていた。
まあ何をやっているのかはお察しの通り。
お店のお手伝い(という名のアルバイト)である。
なぜこうなったのかというと、話はそれほど難しくない。
――ロザリーの本音を聞き出した日。
俺は二人の女の子に「急に何を言い出すんだこいつは」という痛い視線をグサグサと刺されながら言った。
「いいかい? ロザリーの二重人格症状、これの原因はやっぱり重度の人見知りというか、本音を隠してしまうところにあると思うんだ。まあ、根本的なところは家の事情とか環境のせいもあるだろうけれど。まずは、普通に会話できるくらいに、自分に自信を持ってもらう必要がある。精神的な強さを手に入れるんだ」
「ふ~ん。なるほどね。で、ジェフには何か良いアイディアがあるの?」
「まあね。でもこれにはティナの協力が必要不可欠なんだ」
「ロザリーのためだもの。何でも来なさい!」
薄い胸をドンッと叩くティナ。
実におとこら・・・強気な彼女らしいな。頼もしすぎる!
勇ましい姿を見せる彼女に背中を押され、俺は遠慮なく提案する。
「それじゃあ。ティナの家で、ロザリーを働かせてあげてくれないかな? ちょっと荒療治っぽくなってしまうけれど、自信を持って話すためには、とにかく人に馴れることが一番だろうからさ。」
「任せなさい。ロザリーをいっぱしの看板娘に育ててあげるわ!」
「いや、そこまでは・・・」
「・・・がん、ばる」
――かくして現在。
ティナとロザリーは可愛らしいフリフリの付いた衣装(ティナのおじいちゃんが用意した店員服)で、接客の練習中というわけである。
「ありがとうございましたー!!」
「あ、ありがとうございました~」
可愛い。なんて破壊力なんだ!
これでは二人の看板娘を観るためだけに人が殺到してしまうかもしれない。いや、確実に殺到するに違いない。とは言え、人に馴れさせるという目的には、バッチリ合っているからいいのかな・・・。
そんなことを考えていると、ティナがおもむろに聞いてきた。
「ところでジェフ。これが不良とどう関係するのよ?」
「うん? ああ。だってロザリーは貴族の、しかもオストワルト辺境伯家っていう大貴族のご令嬢だよ。こんなところでこっそり働くなんて、絶対に許されるはずがないだろう?」
っていうかバレたら相当怒られる。下手をすると(物理的な意味で)俺たちの首が飛ぶかもしれない。
「だから今、ロザリーは間違いなく “ 不良娘 ” なのさ!」




