136 可愛い花には毒がある?
チンピラの悪夢はまだ終わっていなかった。しかし、そんなことを聞いたところで、はっきり言って俺にはどうしようもない。
向こうから来てくれるなら遠慮なく戦えばいいし、どうせ順位を上げるためには上級生たちと戦わないといけない。だから結局、俺に逃げるという選択肢はないのだ。
というわけで、開き直ろう。友達なんてそのうち出来る。今は鍛錬を頑張らないと。ザッシュたちに追いつくために。
そう自分に言い聞かせて早くも三週間。
変わらず俺のまわりにいるのはティナとロザリー、おさるのジョーのみ。もはや変わり者グループとして定着してしまったのではないだろうか。自分で言うのも苦しいのだけれど・・・。
まあそんなことは置いておいて。
今日は剣術の授業で摸擬戦を行う日である。
場所は試験のときとは違い『第二訓練場』。ここには『第一訓練場』のような小部屋が一切なく、客席にグルっと囲まれた広場があるだけ。いわゆる闘技場に近い造りになっている。
今回は相手がすでに決められており、その相手と戦うのみ。ペアごとに時間が割り当てられているからそれに合わせて準備するかたちだ。
「ロザリー。今日はよろしくね」
俺は対戦相手であるロザリーに声をかけた。
「・・・よろ、しく」
相変わらず奥ゆかしいというか、恥ずかしがり屋のロザリー。今日は髪を後ろで束ねているからか、いつも以上に俯いているため、もはや地面と会話しているような感じである。
ただ一つ言わせてくれ。前髪上げておでこを出した彼女は、正直に言って物凄く愛らしいんだ。いや、それはもうクラスの男子たちが、こぞって鼻息を荒くするくらいには暴力的な可愛さがある。
形の良い眉毛に長いまつげ、パッチリと開いた大きな目。高くはないけれど愛嬌のあるちょこんとした鼻も、男を寄せ付けてしまうらしい。もしかしたら、こういうのが嫌で顔を隠しているのかもしれないね。
そうこうしているうちに時間は過ぎる。
「さて、そろそろ順番だね。行こうか」
「・・・う、うん」
俺とロザリーは広場の中央で向かい合う。間に立つ審判は当然サチウス先生だ。
「それぞれ準備はいいな?」
「はいっ!」
「・・・はい」
「それではこれより、ジェフリー・カーティス対ロザリー・オストワルトの試合を始める! 互いに構え。始めぇええ!!」
「キヒッ!」
サチウス先生の合図に重なったおかしな笑い声。続いて垂れ流されてきたのは、ドスのきいた女生徒の濁声だった。
「よぅ色男。テメェみてぇなチンカスは、オレ様がめった刺しにしてやんよ」
その声の主は・・・細長いレイピアを構えて俺の前に立つ女の子ロザリー・オストワルト。
彼女は先ほどまでの奥ゆかしさを、遥か遠くの異次元へと吹き飛ばしてしまったようだ。人格の入れ替わった暴君は、その綺麗な舌先でレイピアを湿らせ、さらに続ける。
「キヒヒッ! 安心しな。きっちりイカせてやっからよッ!」
煽情的な雰囲気を醸し出した彼女は、勢いよく俺の胸へと飛び込んできた。




