135 おさるのジョー
さて、順調にはじまったかに見えた学校生活。しかしそんなものは、まやかしに過ぎなかったのかもしれない。
思い返してみれば入学式の日からそうだった。俺に話しかけてきたのは、すでに顔見知りか友達だった人たちばかり。いちおうロザリーはいるけれど、他の新入生とは全く話せていない。
いや、というよりなぜか遠巻きにされている感じなのだ。
これってやっぱりあれか? 次の日になったら机と椅子がなくなっているという恐ろしい事件の前兆。
ってまあこの学校には特定の席はないし、設置されているのは複数人が座れる長机だから、その心配はなんだけれども。
でもさ、いくら自由席だからってこれはあんまりだろう?
「あんたさっきから周り見過ぎじゃない?」
ティナが見かねて声をかけてくる。
「だって、これはいくら何でもおかしくない?」
「スッキリしてていいじゃない。それとも私の隣が不満なの?」
「いや、そんなことはないけど・・・」
「・・・」
「う、嬉しいですっ!」
ひぃいい! こ、これは本気のやつだ。
怖いからそんなに睨まないでくださいマルティナさん!
「・・・ここ、だけ」
相変わらずポショポショと話すロザリー。俺はそれに便乗する。
「ほら。ロザリーだって言ってるよ。ここの一角だけ人が座らないのはおかしいって。ティナもそう思うだろう?」
「まあ、なんかよく分からないけど、気分は良くないわよね。こっちも」
さすがに自分でも気づいていたのだろう。ティナも溜め息を漏らして同意した。
そう。彼らはみな俺たちと同じAクラスの仲間であるはずなのに、全く近寄ってこないのだ。教室に入ってくるなり、俺のほうをチラ見してはササッと遠くの席に離れていく。
一体どうしたというのだろうか?
三人で首を傾げていると教室に新たな生徒が入ってきた。
あれは・・・。
「・・・」
目が合ったのは試験のときに摸擬戦をしたサル男。名前はジョーというらしい。彼は俺たちに向かって手を振り上げると、軽い挨拶してきたのだ。
「おはようさんですーお三方っ!」
「「「・・・」」」
あまりの自然さに驚いた俺たちは一様に固まってしまう。ジョーは太い眉毛をハの字に曲げて覗き込んできた。
「どしたん?」
「あ、ああ。うん。おはよ。ジョーは普通に挨拶してくれるんだね」
「はぁ? そんなん当たり前やん。だってあんた有名人やで? そら挨拶の三つや四つ、いや五つはしたくなるわ」
「「「・・・・・・」」」
「って、つっこんでくれやっ!」
鬱陶しい。でもなんでか元気が出るから不思議だ。
「ところで有名人ってどういうこと?」
「うん? ああ。入学式の日、自分 “ 青鬼 ” 様と歩いとったやろ?」
「青鬼?」
「様をつけろ!って言いたいところやけど、“ 雷神 ” 様とも仲良さそうにしててん。ほんまうらやま・・・まあええわ。この学校で青鬼様ゆーたら第四席カフス・キルトン様のことや。ちなみに雷神様はクリス・マグズウェル様。覚えとき」
「へ、へぇ~」
な、なんだって!? あいつらそんなカッコイイ二つ名付けられてたのかっ!
俺の感動をよそに、ジョーは声を潜めて続ける。
「やからジェフリー。あんたは上級生から目ぇつけられてるんや。気ぃつけたほうがええで。一回生の主席さん」
「・・・うん」
俺が避けられている理由ってこれかぁー!!




