132 十傑
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――力強い演説が講堂に響く。
「君たちは何のために騎士を目指す? お金が欲しい、称賛されたい、愛する者をその手で守りたい。それぞれに願いがあり、野心があるだろう。しかしっ! それを成すためには絶対に必要なモノがある・・・」
壇上に立つ壮年の男性が腕を振り上げて、拳を高々と掲げる。
「それは力だっ! 圧倒的な武力だっ! 何者にも屈しない強さが必要なのだっ!! 力なき願いは虚しき妄想でしかない。全てはゆるぎない己の信念によってのみ掴むことが許される。己の意思は己の力で叶えるのだっ!・・・・本日君たちには、その術を教わる権利が与えられた。心して精進せよ」
学校長の演説が終わり、講堂内は静かな熱に満ちていた。
きっと今の演説が効いたのだろう。かく言う俺も、思わず拳を握ってしまうほどの興奮を覚えていたくらいだ。いやもう本当にカッコよかったな!
しかし、そんな熱気を跳ね飛ばす者たちが壇上に現れる。
「静かにしろ」
先頭を歩く男が発した言葉は、恐ろしく鋭利な刃物のような響きだった。今言ったセリフを「殺すぞ」に置き換えても違和感がない。それくらい濃厚な殺気を帯びていたのだ。
男に続いて壇上に登ったのは九人の生徒。
第二席のマリウス、三席のクリス、四席のカフス。ここまでくればなるほど、彼らは学校の頂点十傑のメンバーだと分かる。
続いて登壇したのは大剣の生徒と双剣を背中に挿した生徒。うん。あれはどう見てもジャンとマシューだな。全然変わってないから分かりやすいや。
七席と八席は・・・知らないな。でも、七席は男子のように短く切り揃えた紫髪の女子生徒で、八席は赤い髪を腰まで伸ばした男子生徒なので凄く分かりやすい。
九席は淡い青髪の美女。これはもはや言うまでもなく、成長したサーヤである。ちょっと成長しすぎなくらい、大人の色気を感じさせるその姿は、新入生の男子どもを一瞬で魅了したようだ。
お前ら絶対に手を出すなよ。本当に死ぬぞっ!
最後に登壇したのは真っ白な毛並みの生徒。スラリと伸びた長い手足にふっさふさの尻尾を優雅に遊ばせ、尖った耳をピンと立てた白い狐の獣人であった。
獣人ということもあり、正直俺には判別は難しいが、おそらくあの人は女生徒だろう。さっきからなぜかサーヤのほうを鋭く睨んでいるのが推理の決め手(?)だ。
ズラリ。全員が壇上に並んだところで、先頭の男がカツカツと前に進み出てくる。成長して毛の色が変わったのだろうか。焦げ茶だった毛並みは常闇を押し込めたような漆黒に、背丈も180センチを超えずいぶんと大きくなっていた。
そして驚くべきはその雰囲気。壇上に立つザッシュは、三年前とは全く違い、ひどく尖った空気を纏っている。漏れ出る覇気は、何者も寄せ付けないと言外に語っているように見えた。
一体何が・・・いや、もしかして俺のせい・・なのか?
クリスやカフスの話を思い出し、何となく想像する俺。
と、その時
「雑魚はいらない。今すぐ失せろ」
先ほどと同様に、決して張り上げてはないのに強く響く声音。心を芯から抉り取るように発せられた言葉はさらに続く。
「足手まといは仲間を殺す。騎士にとって弱さは罪だ。仲間殺しの大罪を犯す前に今すぐ帰れ」
吐き捨てるように言ったザッシュはそのまま剣を抜き放ち、壇上で縦に一振り。
「ひっ!」
何かが砕け散る爆音とともに生徒たちから短い悲鳴が上がる。椅子から転げ落ちた生徒は、腰を抜かしてガタガタと震えはじめた。
ザッシュはあの離れた位置から講堂の中央、BクラスとCクラスの間の床を深々と抉ったのだ。
「もう一度言う。雑魚は失せろ」
その姿はまさに “ 修羅 ” と呼ぶべきものだった。




