129 青鬼
一週間後。
辛くもクリスに勝利した俺は、無事に騎士学校を主席で合格することができた。
昨日入ったばかりの寮(学年ごとに建物が違う)の部屋で、真新しい制服に袖を通すのは、少しだけ気持ちがいい。
そんなことを思いながら、俺は剣の紋章が刻印された金色のボタンを、一つ一つ上から順にしめていく。
やがて完成されたのは、艶やかな黒色に身を包み、自信に満ち溢れた精悍な顔つきの少年。凛々しい輝きをその瞳に宿し、常に高みを目指して突き進む。そんな強い意思を感じさせる騎士学生。
ってまあ、鏡に映った自分なんだけどね・・・。
そんなわけで、今日は騎士学校の入学式。俺も含めて、新入生はみんな『大講堂』へと集合するように言われているのだ。
制服に着替えた俺は、早々に寮を出て集合場所へと向かう。
「?」
が、何やら周りの視線が鬱陶しい。
歩いているのは新入生ばかりだから、俺の友達はいないはずだし。そんなにジロジロ見られるほど特殊な容姿はしていない。彼らはなぜ俺をこんなに見てくるのだろうか?
結局訳の分からぬまま石畳を進んでいくと、前方から先輩らしき集団が現れた。数えてみると男子生徒が五人。横に並んでガヤガヤと道の真ん中を歩いている。視線の正体はあれか?
「さっきの見たかよおい!」
「くっそビビッてたぜっ!」
「やめてくだちゃーい。だってよ」
「ぎゃはは! 似すぎだろ」
「・・・雑魚」
どうやら新入生にちょっかいをかけて楽しんでいる輩らしい。はぁ~朝の清々しい気分が台無しだ。何なんだあれは。
白けた目で五人を眺めていると、男たちは俺に気がつき、話しかけてきた。
「おいお前。新入生だな?」
「そうですけど」
「新入生は道の真ん中を歩くな」
「えっと、そんな校則ありました?」
「あんっ? 先輩の言うことが聞けねぇのか?」
「いえ、たんに質問しただけですけど」
「口ごたえすんなっ! 〆られてぇのか?」
チンピラみたいな男たちは俺を睨みつけてくる。凄んでいるつもりらしいが、いまいち迫力に欠けるというか・・・ダサい。
俺が無反応で突っ立っていると、男たちは気をよくしたのか、唾を飛ばしてまくし立ててくる。
「お前 “ 修羅の世代 ” って知ってっか?」
「全校生徒千人。その上位五十人を半数以上も占める最恐の世代」
「それが俺たち四回生 “ 修羅の世代 ” だ。どうだビビったろ?」
「謝るなら今のうちだぞ」
なんか聞いていた話とちょっと違う気がするんだけど・・・大体こんな奴ら知らないし。俺の知り合いにこんな弱そうなのいなかったよね?
「おい貴様ら、そこで何をやっている!」
と、一人で自問自答しそうになったとき。俺の耳に、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「げぇあの青髪は!」
「なんで青鬼がこんなとこにいんだよっ!」
「知らねぇよ。校内四位のバケモンだぞ」
「見回りじゃね?」
「・・・風紀委員長は神出鬼没」
妙に慌てた様子で騒ぎ出す男たち。この声は確か・・・。
「何かあるならこのカフス・キルトンに速やかに申し出よ。学校の風紀を乱す輩は、この僕が矯正してやる。容赦はしない」
暑苦しいシスコ・・・妹大好きお兄ちゃんだったな。




