125 イヌ?
開始と同時に突っ込んでくるサル。
「先手必勝ぉおお!!」
手に持った剣で大振りの攻撃を仕掛けつつ、その隙間から尻尾の剣で突きを放ってくる戦法は中々だ。しかし、俺は剣を抜かずステップのみでそれらを躱す。
「ちっ!」
サルは舌打ちしつつ、さらに斬撃の速度を上げてきた。
「ふっ」
まだイケる。もう少しこのまま様子をみよう。
これは試験、だからこそ試験官に自分の実力をしっかりとアピールする必要がある。あっさり勝利しても実力が正しく伝わらないかもしれないからね。
そうこうしているうちに険しい顔になっていくサル。彼はいよいよ奥の手を出してきた。
「はぁああ!はっ!!」
なんと斬撃の途中で身体強化魔法を発動してきたのだ。俺からは急に斬撃が速くなったように見えた。上手いな。攻撃の緩急を極端につけるための工夫だろう。
「しっ!」
思わず剣を抜いた俺はそのまま数度打ち合い、一度後方へ距離をとる。
そろそろ反撃といこう。
俺は剣を腰に戻して少しだけ身をかがめる。
「【身体強化】!」
――ドンッ
地面を抉り急加速。
「いっ!?」
一瞬でサルへと肉迫した俺。
「はぁああ!【風斬】!」
勢いのままサルの剣を両断し、おまけの蹴りをかましてやる。
「ぐへぇっ!」
くの字に曲がったサルが後方へと吹き飛び、ゴロゴロと転がっていく。運よくギリギリのところで止まったため、壁に激突するのは避けられたみたいだ。
「・・・」
サルは無言のまま立ち上がらない。尻尾で器用に受け身をとっていたみたいだから、死んではいないだろうけれど、結構大きなダメージだったのかもしれない。
俺は試験官に目を向ける。
「しょ、勝負あり!」
口を開いて固まっていた試験官も、ようやく状況がのみ込めたらしい。試合終了の合図を高らかに叫んだ。
すると、蹲っていたサルがゆっくりと立ち上がりこちらへ向かってきた。
「いや~ほんまバケモンやなあんた。こりゃ逆立ちしても勝てまへんわ。ハハッ!」
服を払いつつ目をキラキラさせてこっちを見ている。
随分と清々しい笑顔だな。勝敗については全く気にしていないようだ。それどころかやたらと俺を褒めたたえてくるからむずがゆい。
と、ここで後ろから声が聞こえてきた。
「そんなの当たり前じゃないですか。なぜなら彼は英雄になる男だ」
「えっ?」
部屋の入口に目を向ければ長身の貴公子が一人。騎士学校の制服を身に纏い、背筋を伸ばした立ち姿はすでに相応の貫禄を匂わせている。
しかしなぜだろう、ふわふわとした栗色のくせ毛を躍らせて優しく微笑んでいるさまは、可愛い犬のように見えてしまう。
目じりが光っているからバレバレなのに、相変わらず変なところで強情なやつだ。それじゃあ涙を隠しきれていないじゃないか。
「ハハハ・・・・お前っ!」
「おかえりジェフ君。無事で良かった」
現れたのは、記憶よりもはるかに大人びた俺の親友クリス・マグズウェルだった。




