124 サル
そのあとはトラブルもなく、午前中の試験をつつがなく終えることができた。
残すは午後の摸擬戦闘のみで、今回は他の受験生との一対一、それから在校生との一対一を行うらしい。どんな生徒が出てくるのかちょっと楽しみだな。
ワクワク感に胸を躍らせながら『第一訓練場』の入り口を潜ると、一直線に続く廊下と左右に等間隔で並ぶ扉がズラリ。その各扉の前に受験番号の表示がなされており、試験官と思しき大人が一人ずつ立っている。
「俺の割り当てはっと」
表示を頼りに自分の部屋を探していると、髪の薄い痩せ型の中年男性が一人。ギョロついた目で俺を見ながら聞いてきた。
「お前受験生だな?」
どうやら手に持っていた受験票が見えたらしい。
「はい」
俺は持っていた受験票を試験官に渡し、確認してもらう。
「ふむジェフリー・カーティスか。よし入れ」
試験官は一つ頷くと部屋の扉を開け、中に入るように言ってきた。
そうして用意されていた真剣と防具を身に着けて準備をしていると、大人と子供・・・ではなく試験官と異常に小柄な少年が入ってきた。俺の相手はあれか?
悪いなと思いつつも、つい見てしまうその姿。体格のわりに手足が長く、全体的に毛深い。おまけに、まるでロープのような尻尾を後ろからクネクネと生やしたサル顔の少年。
察するに、彼はサル型の獣人だろうか。ある意味先祖返り(?)と言ってもいいのかもしれない。
「なんや自分。ジロジロこっち見んなや」
おっと見ていたことがバレてしまったようだ。彼は随分と特徴のあるしゃべり方で俺に文句を言ってきた。
「ごめん。ちょっと珍しくて・・・つい」
「しゃーないな。ほんならこの部屋から出てってくれへんか? それでチャラにしたるわ」
「はっ?」
「あんたの謝罪を受け取るゆーとんねん。せやからほれ、出てってくれや」
シッシと、軽い手振りで俺に退室を促す少年。
なんだこいつ。冗談か?
それとも・・・・・
「本気で言ってんの?」
「ひっ! あ、いや、じょ、冗談や冗談。真に受けんといて」
「そう? なら良かった。ハハハッ!」
「ハハハ・・・」
なんだ冗談か。本気だったらどうしてやろうかと。別に朝のトラブルが尾を引いているわけではない・・・と思うんだけれど、なんだかね。
とここで、笑い合う俺たちに試験官が声をかけてくる。
「お前たち準備はいいか?」
「「はい!」」
「まずは中央に整列する。ついてきなさい」
「「はい!」」
――試験官を挟んで向かい合う俺とサル。
改めて正面から見ると本当に小さいな。それに、こいつの戦闘スタイルはだいぶ変わっているようだ。両手で剣を握りしめるのはいいとして、尻尾で剣を持つのはどうなのだろうか。
まあ尻尾で剣をもつこと自体、相当鍛えていないとできない芸当だとは思うし、単純な手数も増えるしな。意外と悪くない手なのかもしれない。
「それではこれより、摸擬戦による戦闘試験を始める。本試験における魔法の使用は、身体強化および回復魔法のみ許可する。勝敗については、どちらかが続行不能もしくは降参を申し出た場合に決着するが、合否判定に直接的な影響はない。技能、判断力、その他総合的な戦闘力により判定されると思え。以上何か質問はあるか?」
中央に立つ試験官が試験のルールを説明し、俺たちに問うてくる。
「ありません」
「特にあらへん」
「うむ。それでは」
試験官は一つ頷くと大きく息を吸い、声を張り上げた。
「始めぇええ!!」




