123 腹のムシが治まらない
あれ以来、エリーはティナのお菓子に文句をつけなくなった。喜んで食べているという感じではないけれど、いちおう認めているようだ。仲良くなるにはまだまだ時間が必要そうだけれどね・・・。
そんなこんなであっという間に時間は過ぎ去り、いよいよ試験当日。俺は試験会場である王立騎士学校の校門前にいた。
「でかっ!」
思わずこぼしてしまうほど大きな校門。そこから長々と続く石畳の先に堂々と鎮座するのは本校舎だろう。俺は手前にある見取り図を眺め、試験会場の場所を確認した。
「はぇ~」
敷地内には、騎士予備校を遥かに超えた規模の、大きな校庭やら訓練場がいくつも点在しているらしい。今回試験を行う場所は『旧校舎』と『第一訓練場』で、どちらも本校舎の裏手にある建物のようだ。
まずは座学と礼儀作法の試験だから『旧校舎』だな。
――敷地内を歩くこと十分少々。
試験会場にはすでに多くの受験生が集まっていた。男子が八割、女子が二割くらいだろうか。いずれにしても、しっかり鍛えていることが見てとれる身体つきをしている。思ったよりレベルが高そうだな。
「あっ!」
その中でも輝いて見える存在が一人。ティナである。
しかし何やら様子がおかしい。
「うっさいわね。どっか行きなさいっ!」
「黙れ平民! そいつを庇うなら容赦しないぞ」
「ここでは貴族も平民も関係ないわ」
「口ごたえするな! そこをどけっ!」
ティナが一人の女の子を背に、貴族らしき男子と言い合いをしている。どうやら女の子のほうも貴族のようだが、顔に酷いあざができているため実に痛々しい。
「あんたみたいなのが騎士になんてなれるわけないでしょ。さっさと帰ったら?」
「なんだと貴様! この俺を侮辱する気かっ!!」
「侮辱もなにも事実じゃない? 女の子に手を上げるようなみっともない男が騎士ですって? 笑わせないで」
「ふざけるなよこのブスがっ!」
男は腰から剣を引き抜こうとする。
いやいやマズいでしょ。何してんのっ!?
「っ!?」
俺はとっさの判断で男に肉迫すると、引き抜かれそうになる剣の柄を押さえて笑顔をつくる。こういうときは笑顔が大事だからね。たとえどれだけイラついていたとしても。
「まあまあ落ち着こう? こんなところで争っても “ 失格 ” になるだけだよ?」
軽い調子で言いながら、俺はティナのほうに目配せをして、女の子を治療するように指示する。ティナのほうは不満そうにしつつも、俺の意図を理解してくれたみたいだ。
ところが男のほうはどうにも腹のムシが治まらないらしい。
「クソッ! 何なんだお前、邪魔をするなっ!」
一向に抜けない剣に苛立ち、俺に泡を飛ばしてくる。
う~む。これはちょっと強めに言ったほうがいいかもしれない。
「黙れ」
「ひっ!」
「これから試験なんだ。それじゃあ体力がもたないぞ?」
「そ、そそそそうだな。わ、分かったよ」
男は若干震えた声で返すと、俺に背を向けて下がっていった。
あっ! 一つ聞きそびれた。
「そういえばさっきのアレ、お前がやったのか?」
「あ、ああ。いや、その・・・ひっ!」
「ふ~ん。分かった覚えておくよ」
ティナをブスって言ったことも含めてね。
もしあいつと戦うことがあったら、その時は楽しく殺れそうだなぁ。ハハハッ!
ついにあのセリフを言わせてしまいました。
“ ドンッ ” も “ 腹パン ” もありませんが……。




