122 ティナの秘策
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皿が二つ並んでいる。
一つはエリーの作ってくれたアップルパイで、もう一つはティナの作ってくれたシフォンケーキである。どちらもとっても美味しそうだ。
「それじゃあ頂くね」
俺は出来立てサクサクのアップルパイを口に運ぶ。
「うおっ!?」
美味い。外のカリッとした食感と中のとろけるような甘味は言うまでもないが、そこにひと工夫。新鮮でシャキシャキとした大小のリンゴを混ぜることで、楽しい食感とほどよい酸味を絶妙に組み合わせている。
気づいたときには皿が空になっていた。
「ふぅ~」
もしかしてお菓子の神様( ゴッド執事長 )に教わったのかな。エリーのアップルパイはそれくらいの出来だった。
俺は渾身のアップルパイをペロリとたいらげると、ティーカップを手に一息。心と口の中を落ち着かせる。
続けて水を一口含むと次の皿に目を向けた。
「次はこっちだね」
ナイフをいれたシフォンケーキは、いい具合にあら熱がとれていてしっとりフワフワだ。生地の隙間から飛び出してきた香りが俺を心地よく包む。
「いただきます」
瞬間、口いっぱいに香る紅茶の風味。おそらく複数の紅茶をブレンドしているのだろう。香りたかいのに清涼感があり、実に気持ちがいい。
そして、キメが細かくて舌触りのいい生地がするりととけて消えていく。なんだか雲を食べているみたいだ。
「ごちそうさまでした」
俺は美味しいお菓子を作ってくれた二人に感謝を込めて丁寧に一言。いよいよこの料理対決に判定を下さなくてはいけない。しかし迷いはなかった。
「勝者は・・・・・マルティナ」
得意げに薄い胸を反らすティナ。
対照的に、信じられないといった表情をみせるエリー。
「そんな・・・・あり得ません・・そんなはずはっ!」
「エリーのアップルパイはすっごく美味しかった。本職のお菓子職人が作ったものだと言われても不思議じゃないくらい。すっごくね」
「ならどうしてっ! どうして・・・私の負けなのですか?」
「これを食べてごらん」
俺はティナの作ったシフォンケーキをエリーに差し出す。
「っ!? これは」
それをそっと口に運び、驚愕をあらわにするエリー。きっとこの一口で気がついたはずだ。
「このシフォンケーキに使われているのはただの紅茶じゃないんだ。そうだよねティナ?」
「ふふんっ! よく気づいたわね」
ご機嫌な様子で解説をはじめるティナ。ちょっと可愛い。
「そうよ! この茶葉は回復薬にも使われる薬草を紅茶に加工したもの。香りも効能もおじいちゃんの折り紙つき。どう? 心も体も全快でしょ?」
こんな発想ができるのはティナだけだろうね。お菓子に回復効果を持たせるなんて普通の人は考えない。ましてやエリーは職人でもない普通の女の子だ。こんなことは絶対に考えつかない。
でもだからこそ
「この工夫が嬉しかったんだ」
「・・・・」
絶句したエリーは、一体どんなことを思っているのだろう。正直、俺には分からない。けれども、きっと悪いことではないはずだ。これをきっかけに、二人が仲良くなってくれればいいな。
そんなことを思いながら
「さぁ残りも食べちゃおう!」
俺は二人の席を用意し始めた。




