121 オレの~
家電っぽいのが出てきますが、魔道具です
――三日後。
ついにこの日がやってきた。
可愛らしくも上品な、桃色を基調としたエプロンドレス。ふわふわとしたくせ毛はこれまた可愛らしいレースのついたカチューシャでまとめられている。これぞ我が自慢の妹エリス。
対するは、黒髪によく映える純白のフリフリを身に纏い、頬を赤らめるいじらしい女の子。俺のほうをチラチラと気にする素振りがなんとも魅力的でたまらない。彼女こそ○○のマルティナである。
二人は厨房の真ん中で握手を交わす。
「本日はよろしくお願い致します。良き勝負ができるといいですわね」
「ふんっ!そっちこそ失敗しないようにね。勝負にもならなかったらがっかりよ」
「オホホホッ」
「ふふふふっ」
貼りつけた笑顔が物凄く恐ろしい。二人の間にはすでに火花、どころか地獄の業火が舞い踊っているかのようだ。
傍から見ている俺ですら身震いが止まらないよ。ああもうホントなんでこんなことになったんだろう・・・。
俺は深い後悔の念を抱えながらも、開始の合図をかける。
「始めっ!」
先に動いたのはエリーだった。
二種類の小麦粉をボウルで混ぜ合わせたあと、手際よくブロック状に切ったバターを投入しヘラで伸ばしはじめる。
「【冷却】」
さらにそこへ少量の水を加えつつ、冷却魔法で冷やしながらよく混ぜていった。さすがは魔法使い志望。冷やし過ぎない程度に上手くコントロールしながら作業しているようだ。
そうこうしているうちに、あっという間に白い生地のような球体が出来上がっていた。エリーはこれをボウルごと冷蔵庫へと寝かせる。
次に取り出したのは美味しそうなリンゴ。
綺麗に皮をむいて芯をとり、薄く切っていく。
どうやらこれを甘く煮ていくようだ。辺りには甘くて美味しそうな香りがふんわりと漂い出した。唾液が口の端からこぼれ落ちそうだ。じゅるり。
さて、一体全体何が出来上がるのやら。はぁ待ちきれないぜちくしょう!
今度はティナのほうを見てみる。
ふむ。何やら卵を黄色いやつと透明なやつに分けはじめた。
ちょっと失礼かもしれないが、ティナの作業があまりにも丁寧すぎて、つい笑ってしまいそうになる。
勝手な想像だけれど、ティナは生真面目というか不器用なイメージがあったから、少し意外に感じてしまったのだ。
それからティナは、透明なほうを冷蔵庫へ、黄色いほうに砂糖を入れてよく混ぜ合わせていく。
俺が目を瞠ったのはここからだ。
ティナは厨房にあった食用油( サラサラしたやつ )を手に取ると、それをボウルの中に躊躇なく投入したのである。
おい嘘だろ? 一体何を作るつもりなんだ? 混乱の谷に叩き落とされた俺をよそにティナの作業は淡々と続いていく。
ティナは牛乳、小麦粉、粉末状の紅茶葉を順番にボウルへと投入し、ひたすら混ぜ合わせていった。
ボウルの中にはドロドロとした混沌が渦を巻いて笑っている。
俺の頭の中では、この世の終焉とでも呼ぶべき恐ろしい想像だけがぐんぐんと膨らんでいった。ボウルをかき混ぜるティナが、毒釜を混ぜる悪い魔女のように見えて仕方がない。
マズいぞ。こいつはダメなやつだ。
俺は心の中で神様にお願いする。
俺を殺さないでっ!




